2018 Fiscal Year Research-status Report
高分子・超分子内エネルギー変換過程の時間分解ベクターポテンシャル分光
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18K05047
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
芦野 慎 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (70247435)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱的ゆらぎ / 電気エネルギー / 変換効率 / 原子移動 / 鉛直(縦)振動 / 引力相互作用 / SWNT / フリースタンディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高分子・超分子内の原子振動が電気エネルギーへと変換される最適条件を見出し、実際に生じるエネルギー変換過程を、先端が原子レベルで鋭利に尖ったプローブ顕微鏡の探針を用いてより鮮明に可視化する方法を具体的に検討することを第一歩としている。そのため、単層カーボンナノチューブ(Single-walled Carbon Nanotube:SWNT)を標準試料として研究を進めてきた。SWNTは、炭素原子が2次元的に蜂の巣状に配列した単一原子の厚さのシート状物質(グラフェン)がチューブ状に巻きあがったものである。SWNTを平坦な基板上に分散させると、最表面側では基板の影響が極めて小さいため、いわゆる「フリースタンディング(freestanding)」な状態が得られる。同じ状態のグラフェンでは内部の原子振動が熱的ゆらぎにより誘発される度合いが高いことが知られており、近年国内外で活発な研究が行われている。そこで、本研究ではそれらを参考に、SWNT系内での熱的な原子振動について検討を行った。また、探針先端原子とSWNT最表面原子との間に働く引力相互作用によりSWNT内の炭素原子が鉛直方向に移動する現象についてその詳細な解析を行った。その結果、熱的振動のうち特に鉛直(縦)方向の振動が電気エネルギーへの変換効率を高める主要な因子となり得ることを見出すと共に、縦方向の熱的振動における原子の移動と同程度の移動量が、探針との引力相互作用によりSWNT最表面原子へも誘発されることを見出した。また、SWNTとグラフェンにおける両者の違いを明確化するため、SWNT由来のフリースタンディング状グラフェンについての原子分解能観察と3次元力場分光測定の結果をもとに同様な移動量について詳細な検討を行った。その結果、局所的により高い曲率が得られる場合に電気エネルギーへの変換効率がより高くなる結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、電気エネルギーへの変換効率は顧みず、プローブ顕微鏡の探針を用いてSWNT最表面原子に原子振動を誘発し、その過程で原子振動が電気エネルギーへと変換される過程を観察できれば良しと考えていた。しかし、探針先端とSWNT最表面との間に働く引力相互作用について、平成30年度に改めて詳細に検討し直した結果、時間的なスケールを度外視すると、探針先端原子によるSWNT最表面原子の移動方向と移動量が原子振動による高効率なエネルギー変換を実現させるための理想的な条件にかなり近いことが見出された。こうした効率化に関するより具体的な検討が、最終的な成果に繋がる早道であると判断し、これまでの実験結果についての更なる理論解析に重点を置くこととなった。そのため、当初の計画にあった除振機構の開発については設計段階までで、実際に業者へ製造依頼を行うのは次年度に繰り越されることとなった。また、具体的な測定機構についてのコンピュータによる自動化用ソフトウェア開発も、より具体的な計測方法について今一度十分な検討が必要となるため、次年度に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究では、SWNTとSWNT由来のフリースタンディング状グラフェンにおいて熱的ゆらぎによる原子振動の度合いとそれによる電気エネルギーへの変換効率を高める因子について見出すことができた。そこで、それらの成果をもとに、分子動力学によるシミュレーションを改めて行い、実際に使用する試料の形態およびサイズについて絞り込みを行うと共に高効率化を実現する実験条件についてより具体的な検討を行う。また、探針先端原子と試料内原子との間の引力相互作用により、試料内の原子移動に伴う電荷移動をケルビンプローブ法等により直接画像化するための装置の設定を進めて行く。その過程で現存装置の除振機構について改めて検討し直し、前年度に進めてきた基本設計に手直しを加えた上で業者に製作を依頼する。以上の過程の中で、電気エネルギーへの変換過程の時間スケールについて、実験とシミュレーションの両方でより詳細な検討を行い、時間分解分光測定がスムーズに実現できるように準備を進める。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、高分子・超分子内で生じる原子の振動が電気エネルギーへと変換される最適な条件を見出し、先端が原子レベルで鋭利に尖ったプローブ顕微鏡の探針を用いてより鮮明に直接可視化する方法を具体的に検討することに注力したため、年度中に予定していた除振機構の設計が完了せず次年度に持ち越しとなった。また、具体的な試料の条件についても検討段階であったため、消耗品などの支出も控えるかたちとなった。そのため、年度内で得られた成果をもとに、除振機構を改めて見直し、基本設計に手直しを加えた上で業者への発注を行う。また、最適な測定条件をもとに試料作製に取掛り、さらに原子移動に伴う電荷移動の直接観察用にケルビンプローブ法の実験設備の購入を行う。
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Research Products
(3 results)