2019 Fiscal Year Research-status Report
Asymmetric photoreaction field using circular polarized light pf localized plasmon
Project/Area Number |
18K05053
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
押切 友也 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (60704567)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | プラズモン / 近接場円偏光 / キラリティ / 光化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
金をはじめとする金属ナノ構造は、局在表面プラズモン共鳴により近接場に強い電場増強し示し、従来より様々な光化学反応に利用されてきた。最近、金属ナノ構造自身がキラリティを有する場合や、あるいはアキラルな金属ナノ構造でさえ、遠方場から入射される左右円偏光に対する応答が異なることが報告されている。 本研究の目的は、未解明であるプラズモンによる近接場キラリティ発現の起源を明らかにし、近接場円偏光を分子との光不斉反応場へ展開することである。そのために、プラズモンナノ構造の形状と近接場の分光特性との関係を系統的に明らかにし、近接場と分子が強く相互作用可能な系の構築を行う。 2018年度は近接場での局所円偏光発現メカニズムについての仮説を提唱し、その検証のために金属ナノ構造を電子線リソグラフィーを用いて精密に作製し、多光子光電子顕微鏡を用い、円偏光照射下での近接場分布および左右円偏光照射下での差スペクトルである円二色性(CD)スペクトルの測定を行い、仮説を支持する結果を得たが、測定精度及び分解能の問題から、データの信頼性に課題があった。。 2019年度は、フェムト秒レーザー・偏光板・および解析ソフトウェアを改修・更新し、円偏光照射下での近接場マッピング及びスペクトル計測の信頼性を大幅に向上させた。その結果、アキラルなプラズモン金ナノ長方形構造であっても円偏光照射下での近接場は非対称となり、CDを示すことが分かった。さらに、金ナノ構造の構造サイズを系統的に変化させて評価した結果、近接場CDの起源が金ナノ構造の二つのモード間の干渉であることが実験的・系統的に示された。 さらに、理論計算及び電磁界シミュレーションを用いて、近接場円偏光の発生および増幅の起源についての一般的指針についての議論を深めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年度に引き続き、2019年度は多光子光電子顕微鏡を用い、円偏光照射下での近接場分布および円二色性(CD)スペクトルの測定を行った。フェムト秒レーザー・偏光板・および解析ソフトウェアを改修・更新し、600-1000 nmの波長測定範囲、と20 nmの波長分解能、4 nmの空間分解能で近接場計測が可能となった。その結果、円偏光照射下での近接場を厳密に評価可能となり、アキラルなプラズモン金ナノ構造であっても円偏光照射下での近接場は非対称となり、CDを示すことが分かった。さらに、金ナノ構造の構造サイズを系統的に変化させて評価した結果、近接場CDの起源が金ナノ構造の二つのプラズモンモード間の干渉であることが実験的に示された。重要なことは、個々のモードの近接場スペクトルの波長及び形状から、近接場CDスペクトルを復元できたという点である。この結果は、プラズモン構造が示す近接場CDを新たな解釈で理解するものであり、様々な構造の近接場CDを予測可能とする、画期的な成果である。また、その過程で、160×480 nmの金ナノ長方向構造が示す長軸方向の高次(6重極子)のモードと、短軸モードとの相互作用の結果得られる近接場の空間分布を明瞭に観測した。こらは、上記改良を施した光電子顕微鏡が世界最高レベルの空間分解能を有しているために得られた結果で有り、他の様々な近接場研究へ展開可能であると期待される。 さらに、理論計算及び電磁界シミュレーションより、近接場円偏光の発生および増幅の起源について理解し、不斉化学反応場としてのナノ構造設計のための理論的指針を得た。 本研究及び派生研究を元に、学術論文4報、国内会議4件、国際会議4件の発表を行った(招待講演3件を含む)。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、理論計算・電磁界シミュレーションによる原理的理解をさらに進めるとともに、近接場円偏光の化学物質との相互作用について実証的に検討する。 その方法論として、ナノ構造上に分子を配置し、蛍光やラマン散乱光の変調を観測する。ラセミ体を配置してどちらか一方の光学活性体からの放射光が増幅されれば、近接場が特定の光学活性体と相互作用することを示唆する。 より直接的には同様にラセミ体を配置し、円偏光照射下での特定の光学活性体の分解速度に変化が生じれば、相互作用を確認できる。 g-factorや鏡像体過剰率を用いてこれらのその相互作用の大きさについて定量的に評価する。 プラズモンナノ構造についても、上記理論的背景を元に、電場・磁場の増強、近接場への光学的異方性の付与などについて明確な指針を持って設計・作製する。 通常、プラズモンナノ構造は数十~数百nmで、その近接場も数~数十nmの広がりがあることから、オングストロームスケールの分子構造との直接的な相互作用は困難であると考えられてきたが、本研究により近接場円偏光と分子との相互作用が遠方場円偏光とのものとは異なるものであると示すことが出来れば、光化学・分子科学の新たな研究領域を開拓可能になるものと期待される。
|