2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of a dual-polarization-modulated comprehensive chiroptical spectrophotometer
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18K05062
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
原田 拓典 大分大学, 理工学部, 准教授 (80581339)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 偏光変調 / 円偏光蛍光 / キラリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、円偏光蛍光(CPL)材料開発は注目を集めている研究領域の1つである。その理由はCPL物質が、3次元表記装置の円偏光光源、高機能記憶・セキュリティ材料、バイオセンサなどの高度な光情報ツールとして認識され、CPL光学特性を巧みに利用したキラル発光材料は、新たな光情報機能分子として期待が寄せられているからである。しかしこれら材料の特性を調べるCPL計測は、光学的な等方試料に限定されており、光学異方性試料は分光装置の非理想性とのカップリング効果由来のアーティファクトの影響で、正しいCPLシグナルが得られず、CPL研究は停滞していた。光学デバイス分野のみならず、近年注目を集めているCPL材料の新機能創製の機運が高まりつつある昨今、真の円偏光蛍光シグナル解析法の考案が急務であり、その重要性は明らかである。 そこで本課題では、偏光変調分光計の性能評価やシグナル解析に威力を発揮するストークスーミューラー行列解析を用い二重変調(DPM)方式に基づく偏光解析不要キラリティ分光計を構築することを目的とした。DPM方式は光学軸が互いに同じ2つの光弾性変調素子のシグナル変調と復調を巧みに操作し、求めるキラリティシグナルのみを選択的に抽出することが可能となる。また先に考案した同一光学系における基底(円二色性)と励起(CPL)状態の両方のキラリティ計測可能な全偏光対応型キラリティ装置の基礎原理を用いており、試料形態を選ばず偏光解析が不要な新概念に基づくキラリティ測定法は独創性と新規性を併せ持つ。本年度は、理論解析に基づき装置を構築し、開発機と既存分光計との性能評価比較を行い、同等の性能が得られることを確認した。また、ベースラインの平滑化は、二つの偏光変調器の周波数の同期が重要なカギを握ることが明らかとなった。最終年度は、開発機を用い、光学異方性試料のキラリティ計測を行い、偏光解析の簡便化をおこなう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
偏光変調装置の性能評価やシグナル解析に、非常に有効であるストークスーミューラー行列 を用いて装置の原理に立ち戻り新たに、偏光解析不要の分析手法の構築に取り組んだ。式(1)は本課題で構築する二重変調キラリティ分光計の行列計算結果である。光強度を検出する光電子増倍管における光強度Idは直流成分と交流成分に分離することができる。(1)式が示す重要な点は、二重変調のうち、第1変調器からの交流成分から第2変調器からの交流成分のシグナル強度の減算を行うことで、光学異方性に関するシグナルが相殺され、計算後に得られるシグナルはキラリティシグナルのみが得られることである。 Id(光の強度)= (直流成分)+ (変調器1の交流成分)-(変調器2の交流成分) --(1) 理論計算に基づき、研究協力者とともに、2重変調方式キラリティ分光計を構築し、各光学素子・電気系の最適化を行った。理論計算によると変調機構を通常のシングルモードからダブルモードに変更することで、光学異方性の寄与を容易に取り除くことが可能であり、上記条件を満たすには、2つの変調器の最大位相差が等しくなること(J0[δM1] = J0[δM2])が必要条件となることが明らかとなった。必要条件が満たされた場合、理想的にはベースラインシフトがフラットになるため、ベースラインシフトで装置性能を判別した。第一変調と第二変調の最大位相差を調整し2つの変調器の位相差を等しく調節することで、シングルモードと比較しフラットで良好なベースラインシフトを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、すでに真の非対称性(円二色性, 円偏光蛍光)測定の報告がなされている光学異性体ベンジル単結晶(空間群: P3221, P3121)を標準試料として構築した二重変調型キラリティ分光計の妥当性を検証する。新概念に基づく偏光解析不要測定装置二重変調型キラリティ分光計の結果と、既存の偏光解析を用いた結果が一致することを確認し、当該開発機の妥当性を確認する。また見かけのキラルシグナルが出現することがよく知られている、延伸したポリビニルアルコールをコンゴーレッドやチオフラビンTで染色したフィルムの偏光解析を行う。アキラルな色素で染色したアキラルなフィルムはキラリティシグナルはゼロであるが、既存のキラリティ分光計では、複雑な解析法を用いなければキラルゼロシグナルを得ることができない。開発機を使用した測定の場合は、容易にキラルゼロシグナルが得られるかどうかを検証する。 これら妥当性を検証した後、構築した開発キラリティ分光計を内外に幅広くキラル分光プラットフォームとして提供する予定である。本課題の達成により、多くの試料に対して、煩雑であった偏光解析が不要となり、3次元ディスプレイなどの有機電子素子開発、バイオ、エナンチオマー選択触媒・キラリティ認識などのナノケミストリー分野での応用だけでなく、CPL計測がキラル測定の新たなツールとしての汎用性が高まることが予測される。当該キラル分子系分野の一助となることができ、飛躍的にキラリティ研究の進展が期待されるものと確信する。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画がスムーズに進み、本年度予定をしていた物品購入が少なかったため予算計上していた物品費予算に残額が生じた。次年度は、残予算を物品費へ追加変更し使用する予定である。
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Research Products
(12 results)