2019 Fiscal Year Research-status Report
引力系コロイドの原子系結晶モデルとしての有効性の検証
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18K05063
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
豊玉 彰子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 講師 (50453072)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥薗 透 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 准教授 (10314725)
山中 淳平 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (80220424)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コロイド / 微粒子 / 結晶成長 / コロイド結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロイド系は、一粒子のダイナミクスが光学顕微鏡によりその場観察でき、また粒子間相互作用の調節も容易であるため、タンパク質や低分子系など、原子・分子系(以下、原子系と略)全般の優れたモデル系として研究されている。 粒径が数100nmのコロイド粒子/水分散系に高分子や第二成分の微粒子を添加したときに生じる枯渇引力による結晶化は、光学顕微鏡によって観察できる。当研究室ではこれまでに、高分子電解質を添加したコロイド系について、共晶構造や多面体結晶の生成など、原子系に類似した現象を多数見出している。 本研究では、これらの様々な現象を原子系の結晶成長理論を用いて解析し、原子系との類似点・相違点を明確にすることで、枯渇引力コロイド系のモデルとしての妥当性を検証する。近年、枯渇引力による構造形成が生物細胞内でも見出されており、本研究の知見は広く自然界で観察される現象の理解に有用と期待される。 今年度は、比重マッチングを行った沈降の影響を受けない試料を作成して粒径による結晶形の変化を、共焦点レーザー走査型顕微鏡や光学顕微鏡観察により検討した(昨年度も一部予備検討を実施した)。結晶の形状は、粒子間ポテンシャルから導かれた、ステップエネルギー密度により説明できると思われ、検討を続けている。粒子の2体間ポテンシャルを用いた議論はコロイド科学の分野の方法論であり、ステップエネルギー密度は結晶成長学で用いられる概念である。本研究を通して、これらの分野の接点が探れるものと期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本系では、構造形成の駆動力として働くコロイド粒子間相互作用として、枯渇引力を対象とする。枯渇引力系における2粒子間の相互作用は、静電斥力、ファンデルワールス(vdW)力、枯渇引力の和として与えられる。相互作用ポテンシャルU*を、Yukawaポテンシャル、vdWポテンシャル、およびAsakura-OosawaポテンシャルU(AO)の総和として計算する。実験では、5種類の粒径(200~1000 nm)を持つポリスチレン粒子と、枯渇引力を働かせるための高分子として、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量約800,000)を添加している。 5種類の粒径のポリスチレン粒子のCpolymer = 0.06wt%におけるポテンシャルの総和を計算した。いずれの場合も、相互作用ポテンシャルは極小値U^* (<0) を持った。すなわち、粒子同士は互いに引き付け合い、その位置関係は準安定的な極小値における表面間距離によって決定付けられると考えられる。また、粒径とU*およびU(AO)の関係を検討したところ、粒径の増加に伴い、相互作用ポテンシャルの極小値は減少し、2粒子間の引力は増加した。粒子間ポテンシャルから、ステップエネルギー密度 (ステップ自由エネルギー)γを計算したところ、粒径が大きいほどγは減少することが予測された。観察された結晶形状の粒径依存性は、γの粒径依存性に基づいて説明できると考えられ、現在検討を続けている。粒子の2体間ポテンシャルを用いた議論は、コロイド科学の分野の方法論であり、ステップエネルギー密度は結晶成長学で用いられる概念である。これらの分野の相違点の解明が本研究の目的であるため、両者の視点により1つの現象の解析が可能になり始めている点など、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロイド結晶化過程におけるコロイド特有の現象と、普遍的な現象の境界は必ずしも明らかでなく、コロイドをモデル系として適応するさい、その範囲を明確化することが必要と考えられる。初年度は、結晶成長の過程を過飽和度により評価した。2年目である本年は、より詳細に粒子間相互作用を検討するために、粒子間ポテンシャルと、結晶成長学で用いられる概念であるステップエネルギー密度 (ステップ自由エネルギー)γを導入した。 最終年度である3年目は、これまでに得られた情報と比較しながら、ダイナミクスと形態の相関を古典論と比較して明らかにする。 高分子電解質の慣性半径や有効電荷は、高分子自体の濃度や系のイオン濃度によって変化する。結晶成長に用いた種々の条件における慣性半径は、理論との比較など今後の解析に必要であるため、決定したい。本課題は2年目にも計画をしていたが、上述の系の環境の他、分子量分野や高分子の中和度など、関わるパラメータが多く、また理論的にも様々な仮定が入るので、2年度中の解決が困難だった。現在も引き続き取組中である。液体クロマトグラフィーなどによる検討も開始している。
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Causes of Carryover |
粒子や高分子など試薬の購入を考えていたが、必要時期が後ろにずれてしまった。必要な試薬の変更は無いので、次年度分と併せて購入予定である。
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Research Products
(7 results)