2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of three-dimensional intermolecular interaction and its application to organic molecular conductors and organic electronic materials
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18K05065
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
山田 順一 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (90191311)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 三次元的相互作用 / 重なり積分 / 有機分子性導体 / 有機電界効果トランジスタ / p型半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では,分子間の二次元的なside-by-side相互作用に加えて,分子間end-to-end相互作用の発現による三次元性の実現を期待して,分子の長軸方向の片側末端にカルコゲン原子をもつBDH-TTP類縁体の合成に着手した。その結果,BDH-TTPの外側のジチオラン環の一つをテトラヒドロピラン環,ピラン環,テトラヒドロチオピラン環,チオピラン環で置換したTHPDH-TTP,PDH-TTP,TTPDH-TTP,TPDH-TTPの合成に成功した。 分子の片側末端に酸素原子をもつTHPDH-TTPとPDH-TTPに関しては,両者のX線構造解析に成功し,重なり積分を計算したところ,両者とも分子スタック方向の相互作用が強い一次元性が示唆された。THPDH-TTPとPDH-TTPの単結晶移動度は,それぞれ8.50×10-4, 1.25×10-2 cm2/Vsであった。 分子の片側末端に硫黄原子をもつTTPDH-TTPとTPDH-TTPに関しては,X線構造解析に適した良質な単結晶の作製には成功していない。TTPDH-TTPの移動度は,単結晶(3.28×10-5 cm2/Vs)よりも真空蒸着法で作製した薄膜(1.49×10-3 cm2/Vs)のほうが高い値を示した。これは,単結晶の表面が滑らかではなく,基板との接触が不十分であったためと考えられる。また,TPDH-TTPの単結晶の表面も滑らかではなく,その移動度は2.26×10-4 cm2/Vsであった。 TTPDH-TTPとTPDH-TTPを用いて電解結晶育成を行った結果,両者のClO4塩が粉末結晶として得られた。TTPDH-TTPのClO4塩はペレット状態で半導体的(Ea = 12 meV)であったのに対し,TPDH-TTPのClO4塩はペレット状態で220 K付近まで金属的であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高移動度を示すBTBT誘導体に見られるように,ヘリングボーン配列をもつ層の形成は二次元的相互作用を実現する上で好都合である。本研究では、ヘリングボーン様式で配列した二次元性のある層の間にさらに相互作用を発現させて三次元的相互作用の実現を目指している。本研究においてプロトタイプとなっているBDH-TTPはヘリングボーン配列の層を形成しており,層内の分子間では大きな重なり積分(9.732, 9.731×10-3)が見積もられている。この層内の二次元性に加えて,層間にも比較的大きな重なり積分(2.79×10-3)が見積もられていることから,擬三次元的物質と見なされる。 BDH-TTP分子に基づいて,層間の重なり積分をさらに大きくするためには,分子の長軸方向の片側末端あるいは両側末端に酸素原子や硫黄原子を導入して,分子間のend-to-end相互作用を強める合成戦略が考えられる。今年度は,この合成戦略の具現化に成功した。すなわち,BDH-TTPの類縁体として,THPDH-TTP,PDH-TTP,TTPDH-TTP,TPDH-TTPの合成を成し遂げた。これらのBDH-TTP類縁体は,昨年度に合成ターゲットとした分子である。 これまでに報告されているカルコゲン原子を含む高移動度p型半導体や有機分子性導体のドナー分子では,分子の側面にカルコゲン原子が導入されている例に比べて,分子の長軸方向の末端にカルコゲン原子が導入されている例は少ない。上記のBDH-TTP類縁体の合成の際には,昨年度に開発したホスホネートを経る合成法を用いたので,その汎用性の高さを実証したことになり,分子の長軸に沿ってカルコゲン原子を導入するための有用な合成法として位置付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
THPDH-TTPとPDH-TTPの結晶構造では,分子が均一にスタックし,そのスタックが並んで層を形成していたが,ヘリングボーン様式の分子配列ではなかった。両者における最も大きな重なり積分は分子スタック内で見積もられたが(THPDH-TTP: 9.59×10-3, PDH-TTP: 6.76×10-3),層間では評価できるほどの重なり積分は計算されなかった。しかし,PDH-TTPの結晶構造では,ピラン環の酸素原子と隣接したPDH-TTP分子における末端エチレン基の水素原子の間に水素結合が観測されたことから,分子末端への酸素原子の導入は,分子間end-to-end相互作用を発現させる上で有望であると考えられる。次年度では,BDH-TTPの外側の二つのジチオラン環をテトラヒドロピラン環,ピラン環,テトラヒドロチオピラン環,チオピラン環で置換するための合成法を検討する。 また,昨年度は2-(ピラン-4-イリデン)-1,3-ジチオールに1,3,5-トリチエパン環が縮環したTTP-DTとそのチオピラン類縁体TTTP-DTの合成に成功している。しかし,両者の重なり積分から見積もった分子間相互作用はいずれも弱く,1,3,5-トリチエパン環の折れ曲がり構造が起因していると考えられる。一方,TTF骨格の両側にベンゼン環が縮環したDB-TTFは,ヘリングボーン様式で配列し,高い単結晶移動度(0.1-1 cm2/Vs)を示すことが報告されている。そこで,TTP-DTとTTTP-DTの1,3,5-トリチエパン環をベンゼン環で置換したP-BTとTP-BTの合成を行う。 さらに,TPDH-TTPのClO4塩がペレット状態で金属的挙動(> ca. 220 K)を示したことを踏まえて,TPDH-TTPのラジカルカチオン塩の単結晶を作製するための電解結晶育成条件を検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)当該年度では,当初の研究計画で予定していた本研究の支援者である大学院生を確保できなかったため,大学院生の学会参加費および旅費が不要になった。また,日本化学会春季年会が中止になったため,旅費が不要になった。 (使用計画)次年度に合成を計画しているP-BTとTP-BTは,当初の研究計画の合成ターゲットには含まれていないため,これらの合成に必要な薬品代・ガラス器具代として使用する。
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Research Products
(14 results)