2018 Fiscal Year Research-status Report
π拡張型らせん状芳香族分子の合成とキラル分子機能の開拓
Project/Area Number |
18K05077
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣瀬 崇至 京都大学, 化学研究所, 准教授 (30626867)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ヘリセン / π拡張 / キラリティー / 円二色性 / らせん反転 / 分子ばね定数 / 芳香族性 / 過渡吸収分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に2種類のπ拡張型キラル化合物の合成を行い、キラルな分子構造に特徴的な分子機能の調査を行った。 ヘキサベンゾコロネンをらせん状に展開した構造を持つπ拡張型[7]ヘリセン(ヘキサペリヘキサベンゾ[7]ヘリセン)は、トルエン溶液中において約800 nmに吸収端を示した。分子構造全体を均一にπ拡張する分子設計が長波長応答性を付与する上で有効であるという知見が得られた。また、π拡張型[7]ヘリセンのらせん構造に由来する光学異性体はキラルHPLCを用いて分離が可能であった。円偏光吸収の非対称因子は |gCD| = 1.6 × 10-2 であり、π拡張型[7]ヘリセンが優れたキラル光学特性を示すことを明らかにした。フェムト秒過渡吸収分光測定によって測定した励起状態寿命は約1.2 psであり、無置換の[7]ヘリセンと比較して10の4乗倍におよぶ超高速の励起状態ダイナミクスを示すことを明らかにした。 ベンゼン環が正六角形状に縮環したケクレンをらせん状に展開したπ伸長型ヘリセン誘導体については、鈴木-宮浦カップリング反応とGrubbs第二世代触媒を用いて効率的に合成できることを明らかにした。合成したπ伸長型ヘリセンのらせん直径は約10.2 Åであり、無置換の[7]ヘリセン(約5.2 Å)と比較して顕著に大きならせん径を持つ化合物である。分子ばね伸長に対応する力の定数を理論化学計算によって調査した所、π伸長型ヘリセンの分子ばね定数は[7]ヘリセンと比較して約10分の1であり、大きならせん径に由来して「非常に柔らかい分子ばね」として振る舞うことを明らかにした。 以上のように、均一にπ共役系を拡張したらせん型芳香族分子が「世界最高レベルの優れたキラル分子機能」や「高い柔軟性を持つ分子ばね材料」を実現する上で有用であることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の研究計画で設計したπ拡張型ヘリセンの内、2種類の化合物について合成、単結晶X線構造解析、円偏光物性の測定に成功し、学術論文として発表することができた。それぞれの化合物の物性測定を通じて、(1)π拡張型[7]ヘリセンが1.2 psの寿命を持つ超高速励起状態ダイナミクスを示すことや、(2)π伸長型ヘリセンが非常にフレキシブルな分子ばね特性を示すことなど、当初の想定以上の知見が得られたことから、当初の研究計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、走査型プローブ顕微鏡などを用いた単一分子測定に向けて、らせん構造の末端に適切な置換基を導入する手法の確立を目指す。また、らせん状分子の水平方向への更なるπ拡張やらせん軸方向へのらせん長の伸長が、らせん状多環芳香族炭化水素 (HPAHs) の分子物性に及ぼす影響について、実測と理論計算を組み合わせたアプローチを用いて検討を進める予定である。
|
Research Products
(14 results)