2018 Fiscal Year Research-status Report
銀カルベノイド種の特性を利用した化学選択的反応の開発と合成展開
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18K05098
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
原田 慎吾 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (50722691)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 銀 / 芳香環 / 金属 / カルベン / カルベノイド / 生物活性物質 / 有機合成 / 反応開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属カルベノイドは、中性で2価のカルベン炭素と金属が錯形成した高活性炭素種である。その高い活性を利用して、C―H官能基化反応を始めとした直截的分子変換法が注目を集めている。カルベノイド化学で一般に用いられる触媒金属種はロジウムであるが、申請者は銀カルベノイド種が特有の反応性を持つことを見出した。金属カルベノイドは金属種に応じて異なる反応を起こすが、その化学選択性発現メカニズムは解明されていない。申請者は選択性発現機構の解明を目指し、以下の三項目を目標として、系統的な研究を推進する事で未踏銀カルベノイド化学の開拓を行った。1 金属カルベノイド種の性質・電子構造等を計算科学的に解析。2 銀カルベノイドの金属特性を活用した選択的分子変換法の開発とメカニズムの解明。3 創薬を目指した未利用天然物の全合成研究。 ナフトール誘導体に対する金属カルベノイドの分子間反応を検討した所、使用する金属触媒により化学選択性の逆転が起こることが明らかになった。銀触媒または金触媒を使った反応ではC-H官能基化に続くラクトン環形成が位置選択的に進行した。一方、ロジウム触媒を用いるとO-H挿入反応のみが進行した。銀カルベノイド種を用いた分子間不斉反応は一切、報告されていなかった。フェノールを求核剤とする反応をモデルとして、キラルリン配位子を持つ銀カルベノイドを発生させた所、良好なエナンチオ選択性でO-H挿入反応が進行した。本反応における官能基選択性はナフトール誘導体の反応とは対照的である。今後はさらなる反応効率の向上を目指すとともに、化学選択性発現機構の解明に取り組む。Dihydrodidymelineは、全合成が達成されておらず生物活性試験も行われていない未利用天然物である。申請者は銀カルベノイド反応を鍵工程とする本天然物の全合成研究を進めており、三環性コア骨格を逐次的に合成することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、計画した通り銀カルベノイド種の特性を活用した反応開発に成功した。また化学選択性発現機構に関しても、並行して量子科学計算に基づく理論解析を進めており、ある程度実験結果を合理化できる結果が得られている。また天然物合成に関する研究は、標的分子の主骨格の立体選択的な合成に成功していることから本研究はおおむね順調に進展していると言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 申請者はこれまでに金属カルベノイド反応において、カルベン炭素が配位している金属種に応じて、異なる化学構造を有する化合物が生成する新たな反応系を見出している。しかし現在のカルベノイド化学ではその化学選択性発現機構を明確に説明できず、その原因の体系的理解は不十分である。申請者は金属触媒の網羅的な検討と密度汎関数法に基づく理論計算を行い、カルベノイドの金属特性の解明と有機合成化学への応用を検討する。 2) 金属カルベノイド種は一般に対応するジアゾ化合物から発生させ有機反応に用いられるが、ジアゾ化合物はしばしば不安定であり、また調整する工程を要するなど、改善の余地を残す。ジアゾ基を用いない金属カルベノイド種の発生法とその応用検討を行う。 3) 本研究の展開として、銀カルベノイド反応を鍵工程とするDihydrodidymelineの初の全合成達成に向けて検討を行う。
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