2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of high performance electroreduction catalyst by activation of renewable organic hydride
Project/Area Number |
18K05100
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小泉 武昭 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (60322674)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 再生可能ヒドリド / 遷移金属錯体 / NAD+/NADH型酸化還元 / 電気化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、配位子上に「電気」と「水」から再生可能なヒドリドを生成できる金属錯体を創製し、「有機ヒドリド」としての機能を強める反応系を構築することにより、有機物の高効率な還元・二酸化炭素の多電子還元によるメタノール生成を実現するための技術開発を目的としている。平成30年度は、NAD+/NADH型酸化還元能を示すユニットをもつ金属錯体の創製として、ピリジン縮環系の化合物である1,8-ナフチリジン (napy) およびジベンゾ[c,h]-1,9,10-アンチリジン (dbanth) を用いて錯体合成の検討を行った。 napyを配位子にもつ金属錯体 [Ru(κ2N,N'-napy)(bpy)2](PF6)2 ([1](PF6)2) および[Cp*MCl(κ2N,N'-napy)](PF6) (M = Rh([2](PF6)), Ir ([3](PF6)) をそれぞれ合成した。これらの錯体に対してCOを反応させたところ、[1](PF6)2は[Ru(CO)(κN-napy)(bpy)2](PF6)2 ([4](PF6)2) へと変換された。一方、 [2](PF6) および [3](PF6) は、COと反応しなかった。次に、dbanthを用いて錯体の合成を試みた。上記napy錯体と同様の反応により、[Ru(κ2N,N'-dbanth)(bpy)2](PF6)2 ([5](PF6)2) および[Cp*MCl(κ2N,N'-dbanth)](PF6) (M = Rh([6](PF6)), Ir ([7](PF6)) をそれぞれ合成した。[5](PF6)2はCOとの反応により、[Ru(CO)(κN-dbanth)(bpy)2](PF6)2 ([8](PF6)2) へと変換されたことを強く示唆する結果が得られた。一方、RhおよびIr錯体については、ほとんど反応は進行しなかった。[4](PF6)2および[8](PF6)2の合成に成功したので、電解還元反応により、これらの錯体のNAD+/NADH型酸化還元能を示す錯体への変換について検討した。現在、生成物の単離・精製について検討を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、NAD+/NADH型酸化還元能を示す錯体の前駆体として、配位子上にピリジン部位をもち、かつそのピリジンのN原子のcis-位に一酸化炭素が配位した錯体の合成について検討した。Ru錯体 [4](PF6)2 および [8](PF6)2 は、[1](PF6)2 および [5](PF6)2 に対するCOの作用により、溶液の色がそれぞれ赤褐色・橙褐色から黄色へと変化したこと、NMRスペクトルからほぼ1種類の錯体のみが生成しており、かつnapyおよびdbanth配位子が残存しているなどの知見が得られたことから、予定通り合成ができたものと考えられる。これらの錯体の電解還元により、napyおよびdbanth配位子中の金属に配位していないピリジン基のN原子と、CO配位子のC原子間で結合を作ることで、NADH型のユニットを形成できる。[1](PF6)2および[5](PF6)2の電解還元反応を行った結果、溶液の色が変化したことから、反応の進行を確認した。現在、生成した錯体の単離・精製を検討している。さらに、dbanthとCOを併せもつ錯体の合成を目指し、[RuCl2(CO)2(PPh2Me)2]とdbanthとの反応を試みたところ、[RuCl(CO)(κ2N,N'-dbanth)(PPh2Me)2](PF6) ([9](PF6)) および [RuCl(CO)(κ2N,N'-dbanth)(κN-dbanth)(PPh2Me)](PF6) ([10](PF6)) が生成した。今後、この錯体についても検討を行う。一方、RhおよびIr錯体については、 [2](PF6), [3](PF6), [6](PF6) および[7](PF6) からのカルボニル錯体への変換ができなかった。これは、Cl配位子が解離しにくいことを示している。以上、Ru錯体を用いることで目的とする錯体の前駆体の合成に成功したこと、電解還元による目的錯体への変換反応も進行していることが強く示唆されたことから、本研究は概ね順調に進行しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の検討より、目的とするNAD+/NADH型酸化還元能を示す錯体の前駆錯体の合成および電解還元による変換反応をRu-napyおよびRu-dbanth錯体を用いることでほぼ達成できた。これらの結果を受け、平成31年度は、はじめに[4](PF6)2および[8](PF6)2の電解還元により生成した錯体の同定を行い、さらに各錯体の配位子上でNAD+/NADH型の酸化還元反応が起こるかどうかについて検討する。[4](PF6)2を電解還元した錯体については、本研究以前の結果として、NADH型の構造、すなわちジヒドロピリジン型の部位を有していることを明らかにしているが、電気化学的性質の詳細については未検討であった。この錯体の酸化還元電位を電気化学測定により明らかにするとともに、電気化学的あるいは化学的な酸化により、NAD+型の錯体へと変換できるかどうか、さらには参加状態から還元状態への逆変換についても検討する。次に、各種基質(二酸化炭素、カルボニル化合物、オレフィンなど)を共存させた状態での電気化学測定を行うことにより、触媒的還元反応について実現の可能性を探る。 ピアノ椅子型構造をもつ[Cp*MCl(N-N)](PF6) (M: Rh or Ir; N-N: napy or dbanth) のカルボニル錯体への変換について検討する。錯体に対してAgPF6などの銀塩を作用させることによりCl基を引き抜き、COを加圧下で反応させることで目的の錯体の創製を目指す。錯体の合成に成功したら、電解還元反応によるN-C結合生成を行い、構造解析を行う。さらに、NAD+/NADH型の酸化還元を起こすかどうかについて電気化学的測定を行い、電解還元反応触媒としての特性を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
配位子の合成を行うための原料として用いる一部の試薬は高価である上に輸入品であり、且つ長期保存に向いていないため、合成の進捗状況に合わせて購入時期を調整している。また、電解反応に用いるガラスセルは特注品であり、発注から製品ができるまで時間がかかるため、年度がかわってから発注することとした。以上の理由により、平成30年度分の一部経費を繰り越し、次年度に物品費として使用する予定である。
|