2018 Fiscal Year Research-status Report
酵素触媒を利用した不斉非対称化反応による光学活性トリプチセン誘導体の合成
Project/Area Number |
18K05128
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
松本 隆司 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (70212222)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 酵素触媒 / 不斉非対称化 / キラルテンプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
トリプチセンは,ビシクロ[2.2.2]オクタンに三つのベンゼン環が縮環した堅牢な骨格構造をもち,置換基間の空間的位置関係の明確な種々の誘導体を設計可能である点で魅力的である。しかし,光学活性なトリプチセン誘導体を合成素子として利用する研究は例が無い。それは,偏に,トリプチセン誘導体を光学活性体として合成する効率的手法が欠如していることによる。 本研究では,光学活性トリプチセン誘導体の中でも,特に,1,8,13位に化学変換可能な異なる三つの置換基をもつ誘導体に着目し,酵素触媒を用いた不斉非対称化反応によるエナンチオ選択的合成法を開発することを目指す。また,それら三つの置換基の選択的変換方法を開発し,様々な不斉反応剤の設計を可能にする,多用途で新しいタイプのキラルテンプレート分子の創成を図る。 本年度は,まず,合成容易な(13位に置換基をもたない)1,8-置換トリプチセン誘導体をモデル化合物として利用し,その不斉非対称化を検討した。その結果,単純な1,8-ジアシルトリプチセンの反応については,アシル基の構造および酵素(リパーゼ)を適切に選択することにより,対応するモノアシル体を最高で収率90%,エナンチオ選択性>99%で得ることに成功した。そもそも酵素触媒が,トリプチセン誘導体のような剛直な三次元構造をもつ芳香族化合物を基質として受け入れるのかどうか,そして不斉非対称化が実現する可能性があるのかどうかという懸念に対して,有望な答えを得ることとなった。 一方,1,8,13位に置換基をもつσ対称トリプチセンを簡便に合成する方法を検討し,二つの有効な合成経路を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,光学活性トリプチセン誘導体の中でも,特に,1,8,13位に化学変換可能な異なる三つの置換基をもつ誘導体に着目し,酵素触媒を用いた不斉非対称化反応によるエナンチオ選択的合成法を開発すること,さらには,それら三つの置換基の選択的変換方法を開発し,様々な不斉反応剤の設計を可能にする,多用途で新しいタイプのキラルテンプレート分子を創成することを目的としたものである。 研究上の重要な課題点の一つは,そもそも酵素触媒が,トリプチセン誘導体のような剛直な三次元構造をもつ芳香族化合物を基質として受け入れるのかどうか,そして不斉非対称化が実現する可能性があるのかどうかという点にあった。それに対して,本年度,単純化されたモデル化合物とはいえ,1,8-ジアシルトリプチセンの反応については,アシル基の構造および酵素(リパーゼ)を適切に選択することにより,対応するモノアシル体を最高で収率90%,エナンチオ選択性>99%で得ることに成功した。この結果により,当初懸念していた根本的な疑問点に対して,有望な答えを得ることとなった。 一方,実際の反応の基質となる1,8,13位に置換基をもつσ対称トリプチセン誘導体がいかに選択的,かつ簡便に合成できるかも,研究全体の成否の鍵を握る。それに対して,本年度,二つの有効な合成経路を確立し,以降の研究を推進する上での土台が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
13位に種々の置換基をもつσ対称1,8-ジアシル置換トリプチセンの不斉非対称化を検討する。反応条件に様々な角度から検討を加え(使用する加水分解酵素,反応溶媒,添加物,pH,温度,反応操作法等),反応基質として満たすべき要件,各々の反応基質に適用すべき最適条件を明らかにし,合成手法として確立する。 また,上記の方法で得られた光学活性トリプチセンについて,そのフェノール性水酸基,アシルオキシ基および13位の置換基を選択的変換する方法を開発する。各種の選択的保護/脱保護のテクニックを活用し,また,トリフラート等の擬似ハライドを経由するカップリング反応なども取り入れることによって,1,8,13位に種々の置換基を自在に導入できる方法を開発する。その後は,トリプチセンのキラリティーだけに基づき,その他の不斉要素(側鎖上に導入された不斉中心など)に拠らない,不斉反応剤の開発を目指す。
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