2019 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属とランタノイドを含む三核錯体の自然分晶におけるキラリティの制御
Project/Area Number |
18K05146
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
鈴木 孝義 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80249953)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 完全自然分晶 / キラリティ / ランタノイド / 多核錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、物質が結晶化する際に常に片方の掌性を持つ光学活性結晶のみが析出する、すなわちキラリティが創出される極めて特異で興味深い完全自然分晶と称する現象の発現機構を解明することを目的とする。三脚状配位子が金属イオンに配位する際に生じるねじれに起因する鏡像異性を生成する金属錯体を対象とし、鏡像体間の素早いラセミ化が起きている溶液中から一方の異性体のみを含む結晶が析出する条件の実験的な確立を行っている。 本年度はまず、三脚状六座シッフ塩基配位子を含む第一遷移金属系列二価イオンの単核錯体についてその結晶化挙動を、単結晶X線構造解析および円二色性分散測定により詳細に調査し、完全自然分晶の可能性を提唱した論文を発表した。また、前年度に引き続き、三脚状架橋型配位子と遷移金属およびランタノイドイオンを含む三核錯体について、金属イオン及び種々の外場条件の違いが結晶化挙動に与える効果を同様の手法で検証した。遷移金属イオンとして亜鉛(II)イオンを含む一連の錯体では、ランタノイドイオンの種類によって同一の結晶化条件でも、生成する結晶の結晶系及び分掌挙動が異なった。このことを利用し、これまでの実験ではD,D型の結晶のみが析出していたTb錯体の飽和溶液に、同系構造のY錯体のL,L型結晶を種結晶として加えたところ、Tb錯体のL,L型結晶が析出することを明らかにした。また、種結晶としてLa錯体のラセミ結晶を用いた場合には、D,D型結晶とL,L型結晶のコングロメレイトが析出する通常の自然分晶が起こることもわかった。これらの結果から、今回の実験で注目したZn-Tb-Zn三核錯体は、種結晶からの誘導では予想される通常の結晶成長過程を示すものの、種結晶を含まない結晶化ではキラリティの偏りを発生する異常性を確認することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で提唱する完全自然分晶を現象論的に確立し、その発現機構を実験的に明らかにするためには、様々な条件下での結晶化実験を繰り返し行い、その結果を一つずつ検証する必要がある。また、考察すべき実験条件には、遷移金属及びランタノイドイオンの種類の他、共存陰イオン及び結晶化溶媒の種類、温度変化や磁場印加及び光照射等の外場要因、キラル源となる不純物の混入など多種多様な要因が考えられるため、多大な時間と労力が必要となる。これまでは、金属イオン及び共存陰イオンと再結晶溶媒の種類、また外場要因の有無に注目して研究を進め、完全自然分晶発現の条件をかなり絞り込むことができた。遷移金属にはマンガン(II)または亜鉛(II)イオンが必須であり、またランタノイドイオンの種類は三核錯体の結晶化挙動に決定的な影響を与えることが明らかになった。さらに、ランタノイドイオンの種類が異なるために得られた同型構造のコングロメレイト結晶を種結晶として用い、これまでの実験において通常の条件では得られなかった掌性を持つ光学活性結晶を得ることにも成功した。これらは、初年度及び次年度に確認すべき項目として想定していた要因であり、そのほとんどについて実験研究を遂行することができた。現在、他の遷移金属とランタノイドイオンの組合せや磁場等の影響の再検証を行なっており、それらの実験結果を含めた研究の総括として論文発表の準備を進めている。また、完全自然分晶を示す新たな化合物の探索も引き続き進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究が対象とする化合物が示す新奇な結晶化現象の発現要因を明らかにすることは、重要未解決課題の一つである自然界におけるキラリティの発現メカニズムを提唱することにつながる。特に、わずかな外場の変化に敏感に応答することが期待される多数の不対f電子を含む中位のランタノイド錯体でこの現象が顕著に観測されることに注目している。このため、様々なランタノイド錯体及び遷移金属イオンとの異種多核錯体を用いて、完全自然分晶の一般性を見いだすことが重要であり、今後の研究の推進方策となる。この際、本研究で明らかにする発現要因が、適切な化合物設計の指針となるであろう。 また、本研究の実用的な展開として、完全自然分晶により得られた光学活性な結晶を新たな光学活性物質合成のキラル源として活用する方向性も考えられる。ただし、現在用いている三核錯体は溶液中では素早くラセミ化してしまうため、均一系キラル触媒としては使えない。不斉合成に応用するためには、光学活性な結晶を固体触媒として用い結晶表面を利用する必要がある。本年度の研究で行なった種結晶を用いた結晶掌性の反転実験は、この化合物の結晶表面において分子のキラリティが認識させていることを示しており、新たなキラル触媒やキラル分子の開発へと派生する可能性を示していた。このため新たな応用展開に向けた研究も進めていく。
|