2018 Fiscal Year Research-status Report
Computational modeling of molecular catalysts for direct hydrazene synthesis from dinitrogen
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18K05148
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Research Institution | Daido University |
Principal Investigator |
田中 宏昌 大同大学, 教養部, 准教授 (20392029)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 窒素固定 / ヒドラジン / アンモニア / 分子触媒 / 理論計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,ピロール部位を含むピンサー配位子をもつ鉄錯体を触媒とした,窒素分子変換反応の機構を,量子化学計算により理論解析した.鉄錯体は東京大学・西林研との共同研究として以前に報告したものである.この反応機構の理解は,窒素からの直接的ヒドラジン合成法を開発するための鍵となる.当初は機構解析に1年半程度を要するとみていたが,本年度終了の段階で全体を見通すことができた. 反応機構として,金属錯体で一般的なDistal機構と酵素反応のAlternating機構,さらに両者を組み合わせたHybrid機構を検討した.理論的はHybrid機構が妥当であり,ヒドラジド(2-)中間体(Fe-NNH2)からヒドラジド(1-)中間体(Fe-HNNH2)への変換がエネルギー的に有利なのが特徴である.ヒドラジド(1-)中間体の生成は,窒素からのヒドラジン合成において必須であるが,既知錯体では,ほぼ全てにおいてヒドラジジウム中間体(Fe-NNH3)中間体への変換が有利であった.したがって,ヒドラジド(1-)中間体生成の効率化がヒドラジン合成への鍵だといえる. 鉄錯体の反応機構解析と並行して,東京大学・西林研と共同で,中心金属を鉄からバナジウムに置き換えた錯体が,窒素分子をアンモニアおよびヒドラジンに変換できることを見出した.触媒活性は鉄錯体より低いものの,窒素固定能をもつ世界初のバナジウム錯体である.反応機構はまだ初期段階しか理論解析できていないが,鉄錯体と類似しているとみられる.その他にも,中心金属をジルコニウムおよびチタンとした錯体が合成された.これらの分子構造は鉄錯体と異なり,2個の金属中心を窒素分子で架橋した二核構造である.配位窒素分子をアンモニアおよびヒドラジンに変換できるものの,触媒量の生成とはならなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,反応機構の解析,すなわち反応のエネルギープロファイル作成には1年半程度かかると見込んでいた.しかし,初年度が終了した段階で,検討すべき反応経路全体の計算を終えることができた.窒素からの直接的ヒドラジン合成の鍵となる反応ステップもほぼ理解できたと考えている.得られた結果を論文として報告するために準備を進めている.したがって,計画どおり研究は進んでいると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で,理論的に妥当な反応経路の全貌をほぼ見通すことができた.また,ヒドラジン合成において重視すべき反応ステップも明らかとなった.そこで今後の予定として,(1) ヒドラジン生成を支配する鍵ステップの反応性を決める要因を明らかにする,および (2) 実験グループとの情報のフィードバックによる類似金属錯体との反応性比較,を考えている. (1)は当初の計画通りで,鍵ステップの電子状態を詳細に解析することで,ヒドラジン生成につながる反応経路を通りやすくする方法を理論計算の面から検討する.(2)については,実験グループも独立して様々な金属や配位子を検討しており,(1) で検討した事項が妥当かどうかをより確実に判断可能となってきた.そこで,実験で合成できた錯体についても鍵ステップのエネルギープロファイルを計算することで,反応性の比較を行う.
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Causes of Carryover |
年度末の段階での物品購入後,細かな物品購入による調整を行わなかったので,わずかに残額が生じた.本学事務に問い合わせたところ,年度末での端数調整の必要はないとの回答を得ている.
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