2019 Fiscal Year Research-status Report
Generalization and application of vinylidene rearrangement of disubstituted alkynes
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18K05154
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
石井 洋一 中央大学, 理工学部, 教授 (40193263)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 拓也 中央大学, 理工学部, 助教 (60768654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ビニリデン錯体 / ルテニウム / ヘテロ原子置換アルキン / 結晶二色性 / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルキン錯体からビニリデン錯体を生成するビニリデン転位は、有機合成にも広く応用される重要な素反応であるが、従来は末端アルキンのみで実施可能とされてきた。これに対して我々は、炭素置換基を2つもつ二置換アルキンでも、ある種のルテニウム錯体を用いるとビニリデン転位が実施できることを示し、ビニリデン転位の一般化への糸口を見出した。本研究では、6~9族の各種の金属錯体でも内部アルキンのビニリデン転位を行える系を開発すること、並びに、従来ほとんど知見のなかった15・16族元素などの置換基を持つ二置換アルキンのビニリデン転位の可能性を明らかにすることを目指している。 2019年度は、転位する元素として15・16族元素に注目し、P, S, N置換内部アルキンのビニリデン転位が実施できるかどうかを検討した。反応場となる錯体として[CpRh(dppe)]+を用いた場合には、アルキニルホスホン酸エステル、アルキニルホスフィンオキシド、アルキニルスルフィド、アルキニルスルホン、N-アルキニル-2-オキサゾリジノンのビニリデン転位が進行することが判明した。Ph との転位能を比較すると、PおよびS置換基はPh置換基に優先して転位するが、N置換基は転位せずPhの転位が優先した。興味深いことに、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド、スルホン置換のビニリデン錯体は結晶二色性を示した。色の異なる結晶中での構造とTD-DFT計算に基づいて、P=OあるいはS=O基とdppe配位子のメチレンCHとの分子内C-H…O水素結合によりビニリデン部分の配座変化が誘起され、二色性が発現したものと結論された。[CpFe(dppe)]+、[Cp*IrCl(PPh3)]+におけるヘテロ原子置換アルキンの転位についても検討し、鉄錯体とアルキニルスルホンの反応でもビニリデン転位と生成物の結晶二色性を一部見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、有機金属化学における素反応の中でも重要性の増しているビニリデン転位の一般化を目指し、目標の一つとして転位する元素を一般化することを掲げている。2018年度にその端緒を掴んだアルキニルホスホン酸エステルの転位をさらに拡張し、アルキニルホスホン酸エステル、アルキニルホスフィンオキシド、アルキニルスルフィド、アルキニルスルホン、N-アルキニル-2-オキサゾリジノンのビニリデン転位を検討した結果、P, S, N置換アルキンのビニリデン転位が実施できることが確認された。しかしアルキニルホスフィンでは加熱条件下でも転位は進行しない。これらのアルキンでヘテロ元素置換基とPhとの転位能を、13C置換アルキンを用いて比較すると、PおよびS置換基はPh置換基に優先して転位するが、N置換基は転位せずPhの転位が優先することがわかった。 続いて、生成したビニリデン錯体の物性を検討したところ、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド、スルホン置換のビニリデン錯体は結晶二色性を示すことが見出された。いずれの錯体も溶液中では黄色を示すが、結晶中では赤および黄色の二種類の結晶になる場合と、赤色の結晶になる場合とがあった。色の異なる結晶中での構造とTD-DFT計算を行ったところ、結晶の可視紫外スペクトルを精度良く再現することができた。また、結晶構造を詳細に検討した結果、P=OあるいはS=O基とdppe配位子のメチレンCHとの分子内C-H…O水素結合によりビニリデン部分の配座変化が誘起され、二色性が発現したものと結論された。 以上のの成果はOrganometallics誌に発表した。このように、研究目的は達成されつつあり、進捗状況はおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、これまでのビニリデン転位の一般化をさらに進め、ホウ素、窒素、酸素置換内部アルキンの反応へと展開する。従来からこれらの元素で置換されたアルキンのビニリデン転位はほとんど未知であったが、2019年度に窒素置換アルキンについてルテニウム錯体の反応で一部検討を開始したところ、転位生成物は得られるが窒素置換基は炭素置換基と比較して転位しづらい結果であった。2020年度はホウ素、窒素、酸素置換基の転位挙動をルテニウム及び鉄錯体で開発・比較し、ヘテロ元素置換内部アルキンのビニリデン転位についての反応機構を統一的に理解することを目指す。筆者らはこれまで炭素置換基2つを持つ内部アルキンで反応機構を理論と実験の両面から明らかにしてきたが(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 17746-17756; Organometallics 2015, 34, 3934-3943)、炭素置換基の転位とヘテロ元素置換基の転位との差についても明らかにしたい。 また、2019年度に報告したルテニウム-スルホニルビニリデンおよびホスホノビニリデン錯体の結晶二色性に関しては、ビニリデン配位子上の置換基による分子内C-H…O水素結合がビニリデン配位子の配座異性体のエネルギー関係に影響し、それが錯体の固体可視紫外スペクトルの変化につながったという興味深い結果が得られた。現在、鉄錯体でもこの結晶二色性が発現することをいくつかの例で見出しつつあり、2020年度には鉄錯体と各種のヘテロ原子置換アルキンの反応へ検討範囲を拡張して、この結晶二色性の発現機構をさらに詳細に解明したい。 内部アルキンのビニリデン転位を触媒反応に展開する試みとしては、内部アルキンのビニリデン転位-水和によるアルデヒド合成、およびビニリデン転位-部分水素化によるアルケン合成を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度は、旅費の執行額が計画よりも少額であったこと、貴金属試薬の使用量が予想よりも少なく購入の必要性がなかったこと、ガラス器具の破損が少なく補充の必要があまりなかったことから、全体として予定使用額以下で済ませることができた。2020年度には重溶媒、13C同位体試薬等の購入を予定しているため、2020年度の交付決定額に2019年度の未使用分も加えた全額を消耗品費、旅費、印刷費で使用する予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Ruthenium Vinylidene Complexes Generated by Selective 1,2-Migration of P- and S- Substituents: Synthesis, Structures, and Dichromism Arising from an Intermolecular CH…O Hydrogen Bond2020
Author(s)
Takuya Kuwabara, Yutaka Aoki, Kousuke Sakajiri, Kazuki Deguchi, ShuheiTakamori, Ai Hamano, Keiko Takano, Hirohiko Houjou and Youichi Ishii
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Journal Title
Organometallics
Volume: 39
Pages: 711-718
DOI
Peer Reviewed
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