2019 Fiscal Year Research-status Report
Pt(II)/Pt(IV)酸化還元対を活用した新規な還元反応触媒系の構築
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18K05158
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
和田 亨 立教大学, 理学部, 教授 (30342637)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 白金錯体 / 酸化還元 / トリアザシクロノナン |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的に、Pt(II)錯体は四配位平面正方型を、Pt(IV)錯体は六配位八面体型の構造を好む。Pt(II)/Pt(IV)の酸化還元には大きな構造変化を伴い、非常に大きなエネルギーを必要とすることから、通常の白金錯体は酸化還元不活性である。ところが、環状三座配位子である1,4,7ートリアザシクロノナン(tacn)を有する白金錯体は、tacnの可逆な構造変化が伴うことによって、Pt(II)/Pt(IV)の可逆な酸化還元が可能である。本研究課題ではPt(tacn)錯体のPt(II)/Pt(IV)酸化還元対を活用した新規還元反応を開発することを目的としている。本年度は、[PtX(tacn)(bpy)]3+ (X = Cl, Br, I, bpy = 2,2'-ビピリジン)を合成、その酸化還元挙動を詳細に検討し、配位子Xが酸化還元挙動に与える影響について明らかにした。その結果、Pt(IV)からPt(II)への二電子還元過程と、Pt(II)からPt(IV)への二電子酸化過程が異なる経路で進行することを解明した。さらに、[PtCl(tacn)(bpy)]3+ を亜鉛で還元することにより、平面正方型のPt(II)錯体である[Pt(tacn)(bpy)](PF6)2を良好な収率で単離することに成功した。これまでは[PtCl(tacn)(bpy)]3+ を電気化学的に還元した後に、再結晶化することによって数粒の[Pt(tacn)(bpy)](PF6)2を得るのが精一杯であったが、新たな合成方法を確立したことにより、還元体[Pt(tacn)(bpy)]2+を実用的な収率で単離できた。還元反応の鍵となるPt(II)錯体の性質と反応性を解明することにより、触媒的な還元反応の研究に大きな進展がもたらされると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、Pt(IV)錯体[PtCl(tacn)(bpy)]3+ を亜鉛で還元することによってPt(II)錯体[Pt(tacn)(bpy)](PF6)2を実用的な収率で単離することに成功した。本研究の目的であるPt(II)/Pt(IV)酸化還元対を活用した新規還元反応を開発するには、その鍵となる中間体であるPt(II)錯体を単離し、その性質を明らかにできるようになったことは大きな進展である。すでに、幾つかの有機化合物と反応し、Pt(IV)錯体が生成することを示唆する結果が得られている。電気化学的にPt(II)へ再還元することができれば、触媒的に反応を進めることができる。さらに、幾つかの有機化合物が配位したPt(IV)錯体の酸化還元挙動についても検討を行い、配位子である有機化合物によって再還元電位は大きく異なることがわかった。これらの得られた情報に基づいて、適切な電極電位で[Pt(tacn)(bpy)](PF6)2を触媒とした電気化学的還元反応を開発する予定である。また本錯体の酸化還元電位は、配位子に依存するが、+0.5~-0.5 V (vs. SCE)の範囲にあることから、[Ru(bpy)3]2+などの光増感剤によって容易に酸化還元が可能である。このことを利用して、令和2年度は光化学反応についても検討を行っていく予定である。以上のように、本年度は次の研究の進展につながる化合物の合成に成功したことから、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、合成単離に成功したPt(II)錯体[Pt(tacn)(bpy)]2+の反応性について詳細に検討する。特に電子移動反応や酸化的付加反応が期待出来る有機ハロゲン化物(R-X, X = Cl, Br, I、R = アルキル、アリール)や水素ガス、ハロゲン単体との反応について検討を行う予定である。これらの化合物は形式的な酸化的付加反応が可能であり、Pt(IV)錯体である[PtR(tacn)(bpy)]3+などの生成が期待出来る。この[PtR(tacn)(bpy)]3+を再還元することによって、ラジカル種の生成が可能である。これを活性種とする電気化学的な触媒反応を開発する。また、一般的に光増感剤として用いられる[Ru(bpy)]2+の酸化還元電位において、[PtCl(tacn)(bpy)]3+を十分に還元可能である。このことを利用して、光化学的な有機基質の活性化を行う予定である。
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Causes of Carryover |
令和元年度は、Pt(II)錯体を良好な収率で単離するなど概ね順調に研究を推進することができた。しかし、論文執筆までに至らなかったため論文投稿費など17,046円の残額が生じた。これは令和2年度に物品費として、錯体合成の原料となる塩化白金酸カリウムやtacn配位子の購入に使用する予定である。
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