2019 Fiscal Year Research-status Report
X線光電子分光による材料組織と化学状態の自動解析技術の開発
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18K05191
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
吉川 英樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 副センター長 (20354409)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Ⅹ線エネルギー可変XPS / 硬Ⅹ線光電子分光 / XPSシミュレーター / スパースモデリング / 情報量基準 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,Ⅹ線光電子分光(XPS)を使った材料研究の高スループット化を目指して,XPSの自動解析の手法開発を行う。この開発で扱う対象は,層状構造やナノシェル構造などの内部組織を持つ試料系である。具体的には,XPSスペクトルを理論的に求めるシミュレーターを使って,多様な内部組織のパターンについて多数のスペクトルの自動計算を行い,得られたXPSスペクトル群から情報科学の手法を使って,試料内部組織と対応するXPSスペクトル上の特徴量や評価関数を求める手法を開発する。これにより実測のXPSスペクトルから試料の内部組織を自動的に高スループットで推定する道を拓く。 対象とするシミュレーターとしては,米国NISTで開発されたSimulation of Electron Spectra for Surface Analysis (SESSA)を用い、昨年度は自動計算のスクリプトの製作を行った。今年度は、本シミュレーターの結果と実測結果とを統合してクラスター分析や機械学習等を適用するために、XPSスペクトルのスパースモデリング(数理モデル化)を行うアルゴリズムの開発と実装を行った。その開発の過程で統計ノイズを含むXPSスペクトルのスパースモデリングの必要性に直面した。シミュレーターからは、統計ノイズの無い(S/N比が無限大の)理想的なXPSスペクトルが得られる。しかしながら、シミュレーター結果と統合解析する対象である実測のXPSスペクトルは統計ノイズを含むため、実測XPSスペクトルの統計ノイズが大きくなるほどシミュレーション結果との統合解析が困難になることが本研究を通して明らかとなった。そのため統計ノイズを含まないシミュレーターが生成するXPSスペクトルだけでなく統計ノイズを含むXPSスペクトルのスパースモデリングのアルゴリズムの開発を行い、その有効性を実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
XPSスペクトルのスパースモデリング(数理モデル化)のアルゴリズム開発において、バックグラウンドとピークの因果関係を厳密に保ってスパースモデル化するアルゴリズムを拡張して、XPSスペクトルの変動する統計ノイズに自動的に対応するスパースモデリングのアルゴリズムの開発を進めた。実測のXPSスペクトルの統計ノイズが増大すると、スパースモデリングの解に大きな任意性が生じてしまい、実測スペクトルの結果とシミュレーション結果との統合解析が困難になってしまう。そこで統計ノイズを含むXPSスペクトルに対してスパースモデリングの解の候補を求める最適化問題の数理解法において、多数の初期値をメタヒューリスティックな(スペクトルに施す平滑化処理の強度を系統的に変化させる)手法で発生させ、得られた多数個の解の候補から赤池情報量基準(AIC)やベイズ情報量基準(BIC)を使って最適な解を自動的に絞り込むアルゴリズムを開発した。なお、AICよりもBICで選別されたスパースモデリングの解の方が、より少数個のピーク本数から成る解を与え、XPSの熟練者が求める解に一致していることから、XPSスペクトルに対しては、情報量基準としてBICがより適していると結論した。これによりシミュレーション結果と実測結果を統合解析する際に、統計ノイズ、表面電荷によるピークシフト、XPS装置のエネルギー分解能で決まるピークの半値幅等の違いを自動的に補正するアルゴリズムの開発が可能となる。 SESSAのシミュレーターのスクリプト処理をより高速化するための並列化処理が可能となる開発を今年度行った。
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Strategy for Future Research Activity |
スパースモデリングを経てシミュレーション結果と実測結果の統合的な扱いを可能にし、深さ方向に内部構造を持つ多層膜試料について,各層の厚さや組成を細かく変化させた際の多数のsurveyスペクトルおよびnarrowスペクトルの自動計算を実施する。試料内部組織と対応関係を持つXPSスペクトル上の(スパースモデリングの結果である数理モデルの各パラメータから構成される)特徴量を使って、逆問題解法としてXPSスペクトルから試料の内部組織の推定のcross validationを行い、本研究提案の妥当性を評価する。
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Causes of Carryover |
2019年度に人件費における残業代の発生を見込んでいたが、最終的に見込んでいた残業の必要が無かったため。2020年度に請求した助成金と合わせて、計算関係のソフトウェア等の少額物品の購入に充てる予定。
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