2018 Fiscal Year Research-status Report
ナノ物質の未知構造解析手法の研究:二体分布関数を用いた解析アルゴリズムの構築
Project/Area Number |
18K05192
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
冨中 悟史 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (90468869)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 二体分布関数 / 未知構造解析 / X線散乱 / ナノ材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、構造未知のナノ物質に対して、その原子配置を解明するための二体分布関数の高度な解析アルゴリズムの確立を目的とする。本年度は放射光実験による標準データの収集や、二体分布関数を用いた未知構造解析について実空間法で取り組んだ結果をまとめた。年度の前半では、既存のX線回折法の未知構造解析について、直接法と実空間法を用いてシアノ錯体の構造解析を行い、論文にまとめた(CrystEngComm 2018, 20, 6713-6720)。さらにSPring-8の実験により、溶液中の酸化チタン原料や非晶質の二体分布関数の測定を行い、水溶液分散体の未知構造解析を行った(ACS Omega 2018, 3, 8874-8881)。複雑な系の二体分布関数の導出を行えるMaterialsPDFプログラムの開発が必須であり、論文の公開とともにプログラムの公開も行った。 さらに天然鉱物のマガディアイト(層状シリケートの1種)は未知構造物質であり、回折法では解析困難であったため、二体分布関数とX線回折の両面から未知構造解析を行い、世界で初めて解析に成功した(Chem Sci 2018, 9, 8637-8643)。この物質は層状であり、層内の原子ペアは周期性は結晶性を示しているが、面間では乱れており、回折法のみではアプローチできない材料である。二体分布関数を用いた構造解析の良い例となった。 既存の二体分布関数のプログラムには限界があったため、二体分布関数の高速シミュレーションのためのプログラムの開発を進め、標準試料についてシミュレーションを行えることを確認した。今後、数学的な処理により、効率的に未知構造解析にアプローチする手法の核になるプログラムにする予定である。このプログラムの開発とともに、実験データから原子ペアベクトルの導出プログラムの開発も進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二体分布関数のシミュレーションプログラムの開発にまで本年度で着手でき、標準試料の計算では既存のプログラムと同等の結果が得られている。拡張性や計算速度の面で多くのメリットがあり、今後の未知構造解析において多くの成果に繋がるものと確信できている。 当初の予定通り、放射光施設において標準試料や解析試料のX線全散乱実験を行うことができ、二体分布関数の導出まで行った。さらに、二体分布関数を用いた未知構造解析について、典型的な例としてマガディアイトの構造解析に成功し、既に論文化まで達成したため大きな意義のある研究として注目されてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
二体分布関数のシミュレーションについて、より柔軟な計算が行えるようにベクトル計算を局所構造や中距離などで分けて計算し、さらに構造の変換に関するベクトルも付与して計算できるようにすることで効率的な未知構造解析を可能になるはずである。この部分のアルゴリズムの確立とプログラム化が本研究の中心になることが分かってきたため、早急に進めたい。 また、MaterialsPDFプログラムの開発により、複雑な系の二体分布関数の導出が行えるようなってきた。その中で、既存の二体分布関数の導出法・シミュレーション法の限界が見えてきた。具体的には孤立原子で求められた原子散乱因子が実材料に合わないという問題である。構造既知の物質であれば問題なく解釈できる部分として扱えるが、構造未知の場合、解釈が不可能である。また固体の本質を表す部分でもあるため、物性の理解には不可欠な点である。実材料の理解をX線散乱の観点から行うために避けて通れない問題であるため、この点に関しても今後、検討を進めていく。
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Research Products
(4 results)