2019 Fiscal Year Research-status Report
有機薄膜トランジスタ作製のための感光性ホスホン酸誘導体の開発
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18K05222
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山口 和夫 神奈川大学, 理学部, 教授 (20114902)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 感光性ホスホン酸 / 自己組織化単分子膜 / 有機薄膜トランジスタ / 2-ニトロベンジル誘導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニトロベンジルカルバマートを含むホスホン酸誘導体で光照射によりアミノ基を発生する1a(以前は1と称していた)以外に、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシ基を発生する1b, 1c, 1dを用いて調製したSAM 1a, 1b, 1c, 1d は、測定した水の接触角、XPS、XRRの結果から、大きな差は見られなかった。露光後は、SAMが光切断され、対応する官能基に変換されていることが確認された。線幅5 μmのフォトマスクを被せて光照射し、スピンコート法で金ナノ粒子インクを塗布した。SAM観察により、アミノ基が露出するSAM1aのみ広範囲で正確な金ナノ粒子のパターンが得られた。 ペルフルオロ鎖を持つホスホン酸誘導体2の代わりに、かご型ポリシロキサンであるPOSS(Polyhedral Silsesquioxane)を含む2-ニトロベンジル基で連結されたホスホン酸4を合成した。4から得られるSAM 4はペルフルオロ鎖を持つSAM 2と同程度の疎水性を示すことが分かり、また光照射により速やかにアミノ基を露出することも分かった。線幅10 μmのフォトマスクを通して同条件で光照射した。得られた基板上に銀ナノ粒子をスピンコートによって塗布したところ、きれいなパターンが得られた。比較の目的のためにホスホン酸ではシランカップリング剤に2-ニトロベンジル基で連結したPOSSを導入したホスホン酸誘導体5もあわせて合成した。このSAM5もSAM4と同様の手法で評価したところ、同程度の性能を持つことが分かった。 さらに、アルキル基やペルフルオロアルキル基を持つ1,2,4,5の代わりに、カルボキシ基を持つホスホン酸誘導体6の合成に成功した。SAM 6も同様の手法で評価することにより、フォトマスクを通した一度の光照射により、アミノ基とカルボキシ基の2種類の官能基をパターン形成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目の計画段階では、まず有機半導体である[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン(BTBT)の末端にアミノ基と反応する活性カ―ボナートを末端にもつBTBT誘導体3を合成する予定であった。しかし純粋な目的物が得られず、申請段階での、有機薄膜トランジスタへの応用のための研究を進めることができなくなった。 しかしながら予定を変更して、新たに合成とSAMの評価において、大きな成果を上げることができた。ペルフルオロ鎖を二本持つ2のSAMは疎水性が高いことが分かったが、ペルフルオロ基を持つ化合物は環境負荷が高くその代替材料の開発が強く求められている。将来の実用化を目指すためには、ペルフルオロ鎖を持たない感光性材料が必要である。その観点から、POSSを含む感光性ホスホン酸4は、2の代替材料としての可能性が高いことが分かった。 カルボキシ基を持つシランカップリング剤は、カルボキシ基とアルコキシシリル基が反応してしまうために、合成は非常に困難である。そのために、従来我々はカルボキシ基を2-ニトロベンジルエステルとして保護した感光性シランカップリング剤を開発してきた。今回合成に成功した2-ニトロベンジルカーボナートで連結したカルボキシ基を末端に持つホスホン酸誘導体6は、シランカップリング剤とは異なり我々の合成経験を生かして合成することに成功した。このSAM 6はフォトマスクを用いた一度の露光によって、アミノ基とカルボキシ基のパターニングを実現することができた。この化合物も、有機薄膜トランジスタへの応用だけでなく、さらに広い用途が期待される。そこで、本年度特許の出願に至ったわけである。
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Strategy for Future Research Activity |
まず2019年度合成を目指したBTBT誘導体3の合成方法を再検討して、3を得る。あるいは合成しやすい構造の類似体の文献調査をしながら、そのターゲットを検索し、合成を試みる。 1年目に合成したホスホン酸誘導体1, 2ではなく、2019年度新たに合成されたPOSSを含むホスホン酸4, シランカップリング剤5及び二つの官能基のパターニングが可能な6の最適化を行う。 4, 5に関しては、一本鎖あるいは二本鎖のPOSSが結合しているホスホン酸とシランカップリング剤のSAMの評価を詳細に行い、その構造を明らかにするとともに、3を結合させたSAMの有機薄膜トランジスタとしての評価を行う。 6に関しては、二つの官能基の組み合わせを、カルボキシル基とアミノ基だけでなく、ヒドロキシ基、チオール基とも組み合わせた化合物の合成を行う。さらにそれらのSAMとしての基礎的な評価を行う。有機薄膜トランジスタへの応用までは目指さない。
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Causes of Carryover |
有機薄膜トランジスタの評価としての研究を進めることができなかったので、その予算額が残った。次年度繰越額は、次年度新たな化合物を用いて、トランジスタの評価まで行う費用に充てる予定である。
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