2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K05229
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
谷口 竜王 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30292444)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノカプセル / 可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合 / 両親媒性ブロックコポリマー / 転相温度(PIT)乳化 / O/W型エマルション / コアセルベーション / 拡張係数 / フォトクロミック色素 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は,はじめに2-cyano-2-propyl dodecyl trithiocarbonateと2,2’-azobis(isobutyronitrile)を用いたstyrene(St)とoligo(ethylene glycol) methyl ether methacrylate(OEGMA)との逐次的な可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合により,乳化剤となる両親媒性櫛形ブロックコポリマーPOEGMAm-b-PStnを合成した。次に,Hansen溶解度パラメーターだけではなく,コア溶媒,カプセル壁となる種々のポリマー,POEGMAm-b-PStn水溶液の表面張力および接触角などの界面化学的特性から算出される拡張係数の観点から,ナノカプセル(NCs)の調製に最適な物質を理論的に選択した。コア溶媒として用いるdipropylene glycol methyl-n-propyl etherに,カプセル壁を形成するモノマーとしてmethyl methacrylateおよびethylene glycol dimethacrylate,フォトクロミック色素としてAberchrome 670を溶解させ,転相温度(PIT)乳化法によりO/W型ナノエマルションを得た。開始剤として2,2’-azobis[2-(2-imidazolin-2-yl)propane] dihydrochlorideを用いたモノマー油滴の重合により,ポリマー濃厚相の相分離現象(コアセルベーション)を誘起し,フォトクロミック色素を含有するリキッドコアNCsを調製した。透過型電子顕微鏡,光散乱法,熱重量分析により,カプセル構造を評価した。また,NCsはポリマー薄膜よりも高い光異性化速度を有しており,NCs内部のコア溶媒がフォトクロミック色素の光異性化に適した溶液環境を提供していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,PIT乳化により得られるO/W型ナノエマルションのモノマー油滴を重合し,油滴内でのコアセルベーションを誘起し,「光学材料を内包する透明なナノカプセル(NCs)の調製」に必要な材料設計を確立することを目的としており,平成30年度に予定していた,RAFTによる両親媒性ブロックコポリマーの合成,界面化学的特性の評価,PIT乳化法によるO/W型エマルションモノマー油滴の重合によるNCsの調製を達成することができた。本研究の光学材料としてはフォトクロミック色素および液晶化合物を対象とするが,平成30年度はフォトクロミック色素を先行して検討した。Hansen溶解度パラメーターおよび拡張係数に基づいて理論的に予想されるNCsのモルフォロジーは,透過型電子顕微鏡により観察される形状と一致することを示した。また,POEGMAm-b-PStnのブロック鎖長(重合度)により,可視光の散乱が見られない数十nmのNCsを作製することができた。さらに,Aberchrome 650をカプセル化したNCs水分散体およびpoly(vinyl alcohol)フィルムは,poly(methyl methacrylate)フィルムにドープしたAberchrome 670よりもTHF溶液に近い光異性化速度を有しており,Aberchrome 670がコア溶媒に良好に溶解した状態でカプセル化されていることを明らかにした。本研究成果は,学術雑誌に掲載されたことから(J. Colloid Interface Sci., 547 (2019) 318-329, https://doi.org/10.1016/j.jcis.2019.04.008),現在までのところ,本研究は順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で述べたとおり,平成30年度はフォトクロミック色素としてAberchrome 670を内包するリキッドコアナノカプセルの調製を先行して検討した。液晶化合物は構成元素および官能基の種類により分類することができるが,我々は既にフォトクロミック色素のカプセル化と同様の手法で,フッ素系液晶化合物(JD-5037XX: JNC石油化学製)のカプセル化の検討を始めている。O/W型エマルション油滴の重合により誘起されるコアセルベーションはポリマー濃厚相の移動を伴う動的なプロセスであるため,粘性の高い液晶化合物で架橋高分子がモノマー油滴表面に理想的に集積するか否か不明であったが,平成30年度に設備として購入した示差走査熱量計(DSC)を用いて熱化学的特性を評価したところ,,いくつかの条件下で調製した液晶NCsではネマチック相-等方相転移温度(TNI)を観測しており,カプセル構造を形成することを見出した。また,偏光顕微鏡観察を行ったところ,TNI以上の温度で暗視野が出現することも明らかにしている。 なお,フォトクロミック色素が溶解したリキッドコアナノカプセルとは異なり,光学材料のもう一方の検討対象となる液晶化合物は,その分子形状や分子間相互作用に起因する分子配向性が光学特性に強い影響を与えることから,Hansen溶解度パラメータや拡張係数により予測されるモルフォロジー制御だけでなく,機能発現の観点から液晶化合物とカプセル壁の材料選択も重要であると考えている。そのため,安価で工業的によく利用されるStやMMAなどの汎用モノマーにとどまらず,液晶性を発現するモノマーなども新たに合成する必要が生じると予測している。今後は,材料の選択による駆動電圧の低下など,機能発現の関係を詳細に検討する予定である。
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Research Products
(5 results)