2019 Fiscal Year Research-status Report
絹フィブロインの構造制御による安全かつ安価な細胞足場材の開発
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18K05232
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
鈴木 悠 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90600263)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フィブロイン / 精練条件 / 引張り試験 / 分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、家蚕繭から未分解絹フィブロイン水溶液の調製法の確立と、得られた未分解フィブロイン繊維の形態、構造、機械的特性の評価を行った。 昨年度検討した精練条件では、セリシンMは除去された水溶液を得ることができたが、セリシンA及びPが若干残存していた。そこで、本年度はこれらのセリシンも完全に除去する精練条件の検討を行った。精練条件を、温度50-60℃、時間5-60分の間で網羅的に評価した。分解状態をSDS-PAGEで評価した結果、50~90℃で390kDa付近のH鎖、135kDa付近のセリシン、35kDa付近のP25、25kDa付近のL鎖のバンドを確認した。また、温度と時間が増加するにつれてセリシンバンドが薄くなるが、同時にフィブロインH鎖も除々に分解されている様子が確認できた。この結果から、すべての分画のセリシンを除去しH鎖の分解が起こらない精練条件は80℃10分であると決定した。また、セリシンが十分に除去されているかを確認するため、精練前後の糸の重さを比較した。従来の精練条件である条件90℃60分は23%の重量低下が確認され、条件80℃10分は22%であったことから、本条件でセリシンが十分に除去されることが確認できた。 次に、80℃10分で精練した糸を未分解フィブロイン繊維、90℃60分で精練した糸を分解フィブロイン繊維として各種物性評価を行った。SEMによる表面観察を行った結果、未分解フィブロイン繊維は分解フィブロイン繊維と同様に遷移表面にセリシンの付着はほぼ確認されなかった。 次に引っ張り試験を行った。未分解フィブロイン繊維は分解フィブロイン繊維に比べ破断応力、破断歪み、靭性が大きく、弾性率は分解フィブロインの方が大きかった。これらの結果から、未分解フィブロイン繊維は分解フィブロイン繊維に比べ機械的特性に優れていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、蚕の紡糸システムの模倣によるフィブロイン製細胞足場材の開発である。そのためには蚕体内の液状絹に近い再生絹フィブロイン水溶液を調製する必要がある。そこで本年度は、家蚕繭から未分解絹フィブロイン水溶液の調製法の確立を目指して研究を進めた。その結果、80℃10分の精練で、フィブロインH鎖が分解されていないフィブロイン繊維を得ることができた。また、セリシン除去については精練前後の繊維重量の変化および繊維表面のSEM画像から、十分に除去されていることが確認された。また、この未分解フィブロイン繊維について各種物性評価を行った。その結果、未分解フィブロイン繊維は分解フィブロイン繊維に比べ破断応力、破断歪み、靭性が大きく、機械的特性に優れていることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
これらの検討で未分解フィブロイン水溶液が得られた後、分解フィブロイン水溶液と未分解水溶液のゾルゲル転移について評価を行う。家蚕絹糸腺内の溶媒条件である、濃度20~30%w/v、pH4~6、カルシウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度等によるゾル-ゲル転移への影響について評価を行う。 また、本年度の研究結果から、未分解フィブロイン繊維は分解フィブロイン繊維よりも機械的特性に優れることが明らかとなったため、フィブロイン水溶液の成形加工体でも同様の物性評価を行う。具体的には、未分解フィブロイン水溶液からフィルムを作製し、表面形態、フィブロインの二次構造、機械的特性等の各種物性評価を行う。 その後、エレクトロスピニング法を用いたナノファイバーマットの作製を行う。シリンジ-ターゲット間距離、電圧、射出速度、ターゲット回転速度等のパラメータの最適化を行う。特に、これまでの研究活動から絹フィブロイン/ポリウレタン小口径人工血管の作製において、シリンジ-ターゲット間距離によりナノファイバーマットの多孔度が変化することが明らかになっているため、詳細に検討する。
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Causes of Carryover |
2019年度に固体NMR装置が故障し4か月ほど測定が行えなかったため、研究経費に計上していた固体NMR測定用試料管を購入せず、今年度予定していた予算に残額が生じ次年度使用額が生じた。現在、固体NMR装置は修理し使用可能となっているため、次年度使用額は次年度に固体NMR測定用試料管の購入に充てる予定である。
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