2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of a preparation method of sophisticated polymer composites having efficient properties
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18K05233
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
板垣 秀幸 静岡大学, 教育学部, 教授 (10159824)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シンジオタクチックポリスチレン / 配向結晶化 / ポリアニリン / 電導度 / イオン液体 / 広角X線回折 / ポリピロール / 飛行時間型質量分析計 |
Outline of Annual Research Achievements |
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)の空隙を有する結晶であるδインターカレート型結晶とε型結晶をフィルム中の一定方向に配列させ、この空隙中で導電性ポリマーを重合させたり、有機金属錯体を配列させたりしてコンポジット化し、配列による特異な機能を発現させるというのが本計画の目標であり、本年度の成果は以下である。①SPSのトリクロロエチレン(TCE)溶液からキャストして作製するフィルムへの処理条件を検討し高配向性のε型結晶を高純度で作製する方法を開発し、更に、ε型結晶のチューブ状空隙にアニリンをゲスト分子として導入し、過硫酸アンモニウムの塩酸溶液に浸漬して酸化カップリング重合を起こし、反応温度・反応時間などを検討した結果、SPSフィルムのε型結晶中に30量体におよぶポリアニリン(PANI)を配列することに成功した。これらのフィルムは、絶縁体のSPS中のPANI含量が4重量%程度でも0.05 S/cmもの電導率を示した。②①のフィルムの導電性を上げる試みとして塩化リチウム溶液への浸漬やヨウ素蒸気の曝露などを行い、10倍以上の電導率の増加が観測された。③26種類の溶媒にSPSを溶解させて、キャストフィルムを作製し、生成する結晶形がδインターカレート型かδ包接型を調べ、キャストフィルムごとのWAXD(広角X線回折)測定をX線ビームの照射方向をフィルムの表裏方向(through)・側面方向(edge・end)と変えて測定・比較することで結晶の配向特性を調べ、結晶配列方向を制御する経験則を求めることに成功した。④新たに別方向からのアプローチを模索し、SPSのピリジンゲルをイオン液体に浸漬してピリジンをイオン液体に交換する方法を駆使して、粘弾性のあるSPSゲルだが、イオン液体やその混合溶媒と同じ電気伝導率を示す、導電性ソフトマテリアルの作製に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請計画に沿って総括すると、『フィルム作製時のキャスト溶媒の種類を20種類以上変化させてSPSのδインターカレート型とε型の、結晶化度と結晶配向性を制御する経験則作成を試みる』、という計画に関しては初年度で目処がついてきた。TCEだけでなく、トルエンやピリジン誘導体が、フィルムの厚さ方向に対して特異的に平行にSPS結晶のポリマー鎖(TTGGコンフォメーションの直線型螺旋構造)が配列し、一方、チオフェンやピリジンのようにフィルムの平面に平行にSPS結晶のポリマー鎖が配列するものがあることがわかり、しかもこれらは溶媒の分子体積に強く相関することがわかった。2019年度はこれらのキャストフィルムから、既に開発済みのε結晶化処理を行い、これらからコンポジットを作製したいと考えている。さらに『これらのコンポジットの物性を電導度測定や気体吸着測定などで数値化して評価することで有用なシステムを提言する』という目標についても、PANIに関していえば、低温などでの重合反応を模索することで、電導率の高いSPS/PANIコンポジットフィルムを作製することに成功し、さらに電導率を上げるために塩の導入やガスの曝露を行い、定量的な成果も現れている。PANIの導電性が電気絶縁体のSPSの被覆によっても阻害されないことから、SPSのイオン液体ゲルの創製と電導率測定にも取り組み、実際に、イオン液体の混合溶媒自体の電導率と、その組成の溶媒から形成されたSPSゲルの電導率がよく一致することも確認できた。こうした素材をもとにセンサーなどの機能発現をさらに定量化したいと考えている。以上、本研究は当初の計画よりも進行し、発展し、成功していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
大きく2つの目標を掲げたい。一つは、(A)PANIだけではなく、結晶空隙内で重合するポリマーの種類も変化させて、このような結晶空隙という限定された空間で重合していく系の具体例を増やし、ここで提案している研究内容をより汎用化していく方向性の実現である。実は、フィルムの厚さ方向に平行にSPS鎖を配列させたSPSε型結晶中でアニリンを重合させると、いわば穴の空いたビーズを糸で縫うように、或いは重合して成長していくPANIポリマー鎖が、結晶を串刺しにしながら伸びていくため、ε型結晶が長くつながるとともに、この方向、即ちフィルムの厚さが増加していく現象が確認された。場合によっては2倍に厚さが広がった。このことは、コンポジットポリマーの重合を通じて結晶の配列を促すだけでなく、フィルムのマクロな形態をも変化させていることを意味する。例えば、水溶性ポリマーとなるモノマー分子をε型結晶空隙中に充填し、重合成長させてε型結晶をより長く連続化させた後で、水で水溶性ポリマーを除去すれば、細くて長い空隙チューブを結晶性フィルムに並べることができる可能性がある。このような将来性も兼ねて、ε型結晶空隙中で複数のポリマー重合を試みたい。(B)本申請の後半の研究計画は、(I) SPS結晶フィルムの結晶空隙中へ有機金属錯体を導入し配列してコンポジット化すること、(II) 水をはじく筈のSPSフィルムを水溶液に浸漬しても重合反応などが起こっているので、水の挙動あるいは溶媒分子のSPSフィルム内での挙動を解明すること、である。ただし、(II) についての試みのひとつが、SPSのイオン液体ゲルの作製実験であった。SPSはイオン液体には溶けないが、ゲル内の溶媒中では、水分子もイオン液体も自由に移動することを本年証明したので、(I)・(II)についても十分な成果を得られると考えている。
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