2019 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of Water Tree Suppressing Effect of Surfactant by Quantum Chemical Calculation and Molecular Dynamics Simulation
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18K05244
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
植原 弘明 関東学院大学, 理工学部, 教授 (00329210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 達希 関東学院大学, 工学総合研究所, 研究員 (00371550)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / 量子化学計算 / ポリエチレン / 界面活性剤 / 水クラスター / 逆ミセル / 抑制効果 / 水トリー |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績は、以下のとおりである。 ①分子動力学シミュレーション:ポリエチレンに関しては、2019年度はn-イコサヘクタン(C120H242)50個を使用し、スケール効果(長鎖化による影響)を確かめた(2018年度はテトラコサン(C24H50)100個を使用していた)。また、界面活性剤に関しては、ステアリルジエタノールアミン(C22H47N1O2)を0個、5個、10個の3種類で使用し、水分子は50個使用した。 分子動力学シミュレーションの結果、シミュレーションセル中の水分子は凝集して水クラスタを形成し、界面活性剤の親水基は水クラスタ側に配向することを確認した。これに加えて、2019年度は新たにエネルギー変化に着目して研究を行った。分子間相互作用に関連する全エネルギーは、位置エネルギーと運動エネルギーで構成されるが、そのなかでも位置エネルギーに着目し、構成する6つのエネルギー(共有結合の伸縮、共有結合角の開閉、共有結合のねじれ、静電エネルギー、ファンデルワールスエネルギー、水素結合エネルギー)のうち、共有結合に関係していない静電エネルギー、ファンデルワールスエネルギー、水素結合エネルギーの3つに着目した。この研究により、第一近接距離(酸素原子間0.24nm、炭素原子間0.35nm)は、電子雲の重なりによるファンデルワールス反発項に起因することがわかった。 ②量子化学計算:分子動力学シミュレーションに抽出した、逆ミセル、水クラスタ、水クラスタと界面活性剤の組み合わせ、分子動力学シミュレーション前後の界面活性剤の量子化学計算により、最高被占分子軌道準位の上昇が、水素結合の数、酸素原子の高い電気陰性度、そして界面活性剤の電気双極子モーメントの大きさに関係していることがわかった。さらに、水トリーの発生は、逆ミセルの拡がり方(3次元的な構造)に大きく依存することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目(2019年度)に予定していた研究内容はおおむね達成でき、国際会議(CEIDP2019、2019年10月開催)でのProceedingにまとめることができたため、研究は順調に進捗していると考えられる。 現在までの進捗状況としては、分子動力学シミュレーションにおいて得られた分子構造から一部分を抽出して量子化学計算を行ってきている。この研究においては、電界印加の際にx軸、y軸、z軸のそれぞれの方向から電界を印加すると、電界方向依存性(水クラスタや逆ミセルの3次元構造体による影響)があることがわかってきた。この電界方向依存性については、上記の国際会議で一部を発表したが、国際会議までの限られた時間内に得られた結果のみでの発表であったため、現在もデータを取得中であり、その成果も出てきているので、近日中に学術論文にまとめる予定である。 また、分子動力学シミュレーション後に抽出した分子構造に対する量子化学計算時ではなく、分子動力学シミュレーション時にも電界印加が可能であることが最近わかったため、x軸、y軸、z軸の3つの方向から電界を印加したデータを現在揃えつつある。これらのデータが揃い次第、国際会議や学術論文への投稿を検討している。ただし、直近の国際会議は、アメリカ・ニュージャージー州での国際会議(CEIDP2020、2020年10月開催予定)であり、現在の新型コロナウィルス感染拡大の影響で国際会議に出席できるかが不明であるので、基本的には学術論文への投稿を優先したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目(2020年度)は、科研費申請時の研究方法に基づき、新たな試みとして分子動力学シミュレーションや量子化学計算にイオン(カチオンとアニオン)を加えることを検討している。 本課題の研究対象である水トリーは、電力ケーブルの絶縁部(架橋ポリエチレン)などに発生する絶縁劣化現象であり、浸水課電時に多く発生することが報告されている。しかしながら、純水では発生しないとも言われている。水トリーには、内部半導電層と外部半導電層を起点として発生するベンティッド水トリー(それぞれ、内導水トリー、外導水トリーと呼ばれている)と架橋ポリエチレン内部に存在するボイドや異物を起点に発生するボウタイ状水トリーの2種類があり、今後の研究の推進方策としては、前者のベンティッド水トリーに関連したものに焦点をあてる予定である。 実際の水トリーの実験では、電解質水溶液として塩化ナトリウム水溶液などが使用されている。ナトリウムイオンのようなカチオンが含まれている場合は、ストークス半径(水和イオンの半径)が小さく、水中での移動が容易であることが考えられ、絶縁体(本研究ではポリエチレン)との近傍において浸透しやすいことが考えられる。 例えば、ナトリウムイオンは2価の銅イオンに比べてストークス半径が小さく、水中での移動が容易であると考えられている。このように、それぞれのイオン(カチオンやアニオン)に関して、分子動力学シミュレーションや量子化学計算を適用することにより、最終的には水トリーの抑制メカニズムの解明に結び付けたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度の国際会議(CEIDP2019)出席のために計上していた金額に対して、実際の旅費を当初の予定よりもかなり安く抑えることができたことと、2020年2月及び3月予定していた電気学会全国大会等の学会及び電気学会の調査専門委員会等の国内出張が新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けてキャンセルされたことに起因していると考えられる。 2020年度出席予定の国際会議(CEIDP2020)では、研究代表者だけではなく、研究分担者も筆頭著者として参加する予定があるので、旅費や学会参加費として計上したいと考えている。ちなみに、アブストラクトは研究代表者および研究分担者ともに受理され、あとは論文を提出する段階まできている。ただし、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、渡航ができなくなる可能性も視野に入れ、その場合は学術論文投稿の際の英文校閲や学会によっては必要となる論文掲載料に使用するなど柔軟に対処したいと考えている。
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