2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of p- and n-type organic thermoelectric materials with porous structure
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18K05260
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 義明 京都大学, 理学研究科, 助教 (60402757)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 超分子化学 / ハロゲン結合 / 水素結合 / 熱電材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
超分子相互作用能を有するπ共役系分子を用いた有機熱電材料の開発を目的として、主に以下の成果を得た。 (1)結晶構造と導電性・磁性等の基礎物性について明らかにした(EDO-TTF-I)2ClO4の単結晶試料について、電気抵抗率、ゼーベック係数、熱伝導率の同時測定を室温から液体窒素温度の範囲で行った。温度低下に伴い、モット絶縁体から半金属への相転移が起こり、相転移温度で電気抵抗率とゼーベック係数の急激な減少が観測された。一方で、熱伝導率は相転移前後で大きな変化はなく、本物質の熱伝導率は、格子熱伝導率に支配されていることが示唆された。 (2)3,3'''-ジヘキシル-2,2':5',2'':5'',2'''-クアテルチオフェンの5,5'''-ジヨード体(I24T)と5-エチニルピリミジンを薗頭カップリングさせることにより、ピリミジニルエチニル基を2つ導入したPM24Tを得た。PM24Tをピリジンとメタノール混合溶媒から再結晶することによりPM24Tの単結晶、クロロホルムから再結晶することによりPM24T・2CHCl3の単結晶を得た。PM24Tでは、ピリミジン環とチオフェン環の間の水素結合により1次元鎖が形成され、1次元鎖間のピリミジン環同士の水素結合により、2次元シートが形成されていた。PM24T・2CHCl3では、PM24Tと同様に、ピリミジン環とチオフェン環の間の水素結合により1次元鎖が形成されており、この分子間相互作用がPM24T系において主要な相互作用となっていることが示唆された。また、1次元鎖は、ピリミジン環・・・クロロホルム・・・チオフェン環の水素結合により架橋されており、2次元シートが形成されていた。超分子相互作用部位の導入によりネットワーク構造を構築しつつ、ゲストを取り込んだ結晶構造が形成されることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、新規ハロゲン結合ドナー分子としてヨードエチニル基を有するテトラチアフルバレン誘導体の合成、超分子相互作用部位を導入したクアテルチオフェン誘導体を用いた電荷移動錯体の作製等を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、研究活動が制限されたため、急遽、研究計画の大幅な変更を行った。具体的には、合成に時間を要するヨードエチニル基を有するテトラチアフルバレン誘導体の合成を止め、超分子相互作用部位としてピリジル基を有するテトラクロロペリレンジイミド誘導体(Py2Cl4PDI)を合成した。また、そのピリジル基とペリレンジイミド部位をメチレンやエチレンで架橋した誘導体((PyCn)2Cl4PDI, n = 1, 2)を合成した。これらのペリレンジイミド誘導体は、市販試薬から1段階で赤色粉末として得ることができ、溶液中で、UVを照射することにより発光が観測された。また、UVスペクトル、量子化学計算、既知の報告から、これらのペリレンジイミド誘導体は、-0.8 V vs. Fc/Fc+程度の第1還元電位を有すると予想された。そこで、DMF、または、o-ジクロロベンゼン中で、亜鉛粉末やテトラキス(ジメチルアミノ)エチレンを用いて、(PyC2)2Cl4PDIの還元を行ったところ、緑色の溶液が得られ、ペリレンジイミド誘導体のラジカルアニオンの発生が確認できた。溶液を冷却し、単結晶育成を試みたが、粉末が得られた。得られた粉末の加圧成型試料について導電挙動を調べたところ、室温電気抵抗率は10の7乗Ω cm、活性化エネルギー0.36 eVの絶縁体であった。また、クアテルチオフェン誘導体の電荷移動錯体の作製についても予備的な検討に留まっている。以上より、進捗状況はやや遅れていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
超分子相互作用能を有するπ共役系分子を用いたp型、および、n型有機熱電材料を開発するために、実験・理論の両面から以下の研究を進める。 (1)熱電特性評価と熱電物性発現機構の解明:室温から液体窒素温度までの熱電特性評価を行った(EDO-TTF-I)2ClO4について、液体ヘリウムを用いてさらに極低温までの熱電特性評価を行い、熱電物性の発現機構を明らかにする。 (2)p型有機熱電材料開発:超分子結合の供与部位としてヨウ素やヨードエチニル基、超分子結合の受容部位としてピリミジン等の含窒素複素環といった超分子結合部位を有するクアテルチオフェン(4T)、1,6-ジチアピレン(DTPY)誘導体の合成を行う。超分子結合部位を有する4T誘導体については、前年度までにジヨード体(I24T)、ジピリミジニルエチニル体(PM24T)、モノピリミジニルエチニル、モノヨード体(PMI4T)の合成に成功している。DTPY誘導体は、既報の文献を参考に2,7-ジヨード-1,6-ジチアピレン(I2DTPY)を合成し、ヨードエチニル化や含窒素複素環を導入する。さらに、超分子結合部位を導入した4T、DTPY誘導体の電荷移動錯体を作製し、構造と物性を明らかにする。 (3)n型有機熱電材料開発:超分子結合受容部位としてシアノ基を有し、電子受容体であるテトラシアノキノジメタン(TCNQ)類縁体と超分子結合供与性分子を用いた電荷移動錯体を作製し、構造と物性を明らかにする。クラウンエーテル、クリプタンド、ピラーアレーンのカチオン包接能を利用することにより、超分子カチオンを作製し、超分子カチオンを含むTCNQ類縁体のラジカルアニオン塩を作製し、構造と物性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
【理由】新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、研究活動が制限されたため、急遽、研究計画の大幅な変更を行った。具体的には、当初予定していた合成に時間を要する目的化合物を、短期間で合成可能な化合物に変更した。また、当該年度内に完了する予定であった課題を十分に検討することができず大幅な遅れが生じた。さらに、出張を伴う活動(研究成果発表、研究打合せ)が制限され、研究目的を達成することが困難となったため、未使用分を次年度以降の物品の購入等に充当することとした。
【使用計画】主として試料合成や物性評価を推進するための物品費、薬品、ガラス器具や電子部品等の実験器具、液体窒素や液体ヘリウムといった寒剤の購入に充当する。これにより、超分子結合部位を有するクアテルチオフェン(4T)、1,6-ジチアピレン(DTPY)誘導体、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体、クラウンエーテル、クリプタンド、ピラーアレーンを用いた超分子カチオンの合成を行い、それらの電荷移動錯体を作製する。また、得られた試料のX線結晶構造解析や物性評価を行う。さらに、研究成果発表や研究打合せ等の旅費に使用する。
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Research Products
(3 results)