2020 Fiscal Year Research-status Report
複素環を有するTTF誘導体を用いた外場応答型伝導体の開発
Project/Area Number |
18K05264
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
藤原 秀紀 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70290898)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子性伝導体 / 伝導性 / 磁性 / πーd相互作用 / TTF / 複素環 / X線構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度研究目的・方法にある、①分子内、あるいは分子間でのプロトン移動による、互変異性や電子状態変化を通じた外場応答型伝導体の開発を目指し、窒素を含むジアザキノン骨格と水酸基を有するドナー分子の開発を前年度に引き続き行った。置換基として、1,3-ジチオール環側にベンゾ環、中央のジアザキノイド部分にエトキシ基を有する分子を成功し、その構造と光学的、電子的性質を明らかにした。合成した分子のDFT計算を行ったところ、HOMOの軌道係数は分子全体に非局在化し、中央の複素環内の窒素原子上にまで広がっていた。次に、分子のサイクリックボルタンメトリーの測定を行ったところ、π拡張TTF骨格に由来する2段階の可逆な1電子酸化還元波が観測された。電子供与性を低減させるベンゾ置換やNヘテロ環の挿入にも関わらず、TTF よりも高い電子供与性を有することが明らかになった。また、段階的に正電位を印加しながら吸収スペクトルを測定したところ、中性状態における黄色(lambda (max) = 480 nm)から、ラジカルカチオン状態の水色(lambda (max) = 628 nm)、ジカチオン状態のピンク色(lambda (max) = 494 nm)への色調変化が観測された。以上のことから、分子は印加電場の違いによって鮮やかな色調変化を示すエレクトロクロミック特性を有することが明らかになった。また、そのAsF6塩について単結晶を作製し、その構造解析を行ったところ、1:1の組成を有し、結晶内でドナー分子が強く二量化しながら、擬二次元的に積層していることが明らかになったが、強い二量化のため、伝導性は絶縁体であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成31年度研究目的・方法にある、①分子内、あるいは分子間でのプロトン移動による、互変異性や電子状態変化を通じた外場応答型伝導体の開発については、窒素を含むジアザキノン骨格と水酸基を有するドナー分子の前駆体の合成に成功し、それらの酸化還元電位測定や光学測定を行い、量子化学計算とともに、その電子状態について実験と理論の両面から議論できている。また、カチオンラジカル塩の作製とその構造・物性の評価にも成功している。しかしながら、エトキシ基から水酸基への変換は未だ達成できておらず、プロトン移動による互変異性の発現や電子状態変化を通じた外場応答型伝導体の開発には至っていない。また、光照射による光誘起分子内電子移動を通じた、光応答性をしめす磁性伝導体の開発についても、光電気化学的手法による光誘起伝導性などを今後進めていく予定である。令和2年度当初は、緊急事態宣言の発出などにより、数カ月に渡って実験が行えない状況が続き、その後も、コロナウイルス感染防止対策のため、例年よりも実験時間が大幅に減少しており、期待したほどの成果を得ることができなかった。そのため、研究期間を1年間延長し、引き続き、設定した課題の実現に向けて研究活動を行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新規分子の開発についてはこれまでに、ピリジン、ピラジン、ピリミジンや1,3-ベンゾチアゾールを置換したビスメチルチオTTF誘導体などの複素環を一つ有する分子の開発に成功している。また、新たに窒素を含むジアザキノン骨格と水酸基を有するドナー分子の開発にも引き続き取り組んでおり、開発に成功した場合にはリボン状の水素結合ネットワークの構築による、高次の配位ネットワークの構築が期待される。そのため、複数の複素環部位を有する分子の開発と併せて精力的に行っていく予定である。また、これまでに高い伝導性を示すカチオンラジカル塩の作製に成功していないため、より強固な積層構造を構築可能と考えられる、エチレンジチオ置換体やエチレンジオキシ置換体、更にπ骨格を拡張した分子の合成を行い、その高伝導性塩の作製を目指す予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)新型コロナウイルス感染防止のため、予定されていた学会参加や出張はすべて行うことができず、旅費および学会参加費が発生しなかった。また、年度当初は、緊急事態宣言の発出などにより、数カ月に渡って実験が行えない状況が続き、その後も、コロナウイルス感染防止対策のため、例年よりも実験時間が大幅に減少したため、試薬費や物品購入費が大幅に減少した。以上の理由から発生した残金は、研究期間を一年間延長したため、延長期間に有効利用する予定である (使用計画) 余剰金は物品費および旅費として令和3年度に使用する。
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