2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒドリド伝導水素化物の高温高圧合成による新規超イオン伝導体の創成
Project/Area Number |
18K05284
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
中野 智志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (50343869)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤久 裕司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90357913)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ヒドリド伝導 / 高温高圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年0.2 S cm-1と高い導電率が見出されたBaH2の高温相は、Ni2In構造を持つヒドリド伝導体である。BaH2の高圧相も同じNi2In構造であることが報告されているが、高温高圧下での相関係は明らかではない。より広範な温度圧力条件を用いれば、既知相の関係が明らかになるとともに、新たな超イオン伝導相が得られる期待がある。本研究は、高温高圧を用いてBaH2の多形の探索とその相関係を明らかにするとともに、超イオン伝導相の常温常圧回収や伝導メカニズムの解明、あらたな超イオン伝導相の探索を目的に構造物性研究を行う。 今年度は、外熱式DACによる高温高圧その場観察技術の高度化を進め、10GPa,600℃までの高圧X線回折、10GPa,300℃までの高圧Raman分光の安定的測定、および200℃以上の高温での正確な圧力測定が可能となった。これをもとに、高温高圧下におけるBaH2の構造変化を調べた。 6GPa, 550℃まで昇圧・昇温したBaH2のX線回折パターンの変化から、常温常圧相(AP)と高圧相(HP1)の相境界は負の傾きを持つことが明らかとなった。この延長線上には常温常圧相と高温相(HT)との相境界があることから、両相境界は繋がっており、HP1とHTは同じ相であることがほぼ明らかとなった(以後、HPHTとする)。APからHPHTへの相転移において、この相境界を昇温で越える場合と昇圧で越える場合では、後者の方がよりsluggishで二相共存状態が続き、kineticsにより相転移を起こしにくいことが分かった。今後、HPHTの物性を測定するにあたり単相であることが重要であるので、単相となる温度・圧力条件も確認した。今後、この相図を元にHPHTのイオン電導率測定を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を遂行するための開発要素については、10GPa, 600℃までの安定的な高温高圧X線回折実験を実現しほぼ達成できた。しかし、繰り返し実験によりヒーターの劣化が見られ、さらにヒーター材の検討などの改良を要する。高温下での圧力測定については、Sm2+:SrB4O7の蛍光ピークを用いる手法により200℃以上でも0.1GPa以下の精度で測定が可能となった。これらの技術を用い、BaH2各相の生成条件・単相条件を把握するための高温高圧相図の作成は、10GPa, 600℃までの範囲でほぼ完了し、常圧相APと高温高圧相HPHTとの関係は明らかとなった。 しかし、さらに高圧下約55GPaで現れる高圧相HP2との関係については、まだ明らかではない。10GPa以上の圧力で安定的な外熱実験を行うための技術改良は今後も必要となる。物性測定については、イオン電導率の圧力温度依存性の測定は着手し始めたところであり、各相の物性測定・評価が遅れている。さらに、水素欠陥の導入によるイオン電導率の向上の試みや、伝導メカニズムの解明を目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
高温高圧相関係が明らかとなったAPとHPHTについて、交流インピーダンス方による高温高圧下その場イオン電導率測定を行う。これについては、既にセットアップが完了し実験に着手している。各相のイオン電導率の温度依存性を10GPaまでの異なる圧力で測定し、温度・圧力依存性を評価する。 また、さらにこれ以外の相の構造と生成条件、物性を明らかにする。実験条件を60GPa, 300℃までに拡大し、より高圧で現れる相HP2の生成・単相化条件を明らかにするとともに、イオン電導率を測定する。また、重水素化したBaD2を合成し、高圧中性子回折によりHP2の構造を明らかにする。 BaH2に少量のアルカリ金属を添加し、水素雰囲気下で高温高圧処理することで、水素欠陥を導入した相の生成を行う。これを高温高圧X線回折・Raman散乱等で評価するとともに、水素欠陥の生成とイオン電導率の変化を調べる。これにより、よりイオン電導率の高い化合物の生成を目指す。 また、これらの実験結果をもとに、BaH2のヒドリド伝導メカニズムを推定行う。
|
Causes of Carryover |
物性測定に取りかかる時期が遅れ、一部の消耗品の購入を次年度に回したため、約5万円の繰り越しとなった。次年度は高圧アンビル、ヒーター材、ガスケット材、絶縁材などの物性測定に必要な消耗品の他、水素欠陥相の生成のために必要な薬品(アルカリ金属)と高純度水素ガス、グローブボックスの雰囲気改善に必要な標準ガスなどの消耗品を購入する。また、高圧中性子回折を実施するため、J-PARCへの旅費を支出する。
|