2018 Fiscal Year Research-status Report
s軌道性の価電子帯をもつ透明p型半導体におけるキャリア生成と薄膜化
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18K05285
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
菊地 直人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (20308589)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 酸化物半導体 / p型半導体 / キャリア生成機構 / ワイドバンドギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
キャリア生成機構の解明 Sn(II)系酸化物で初めてp型化に成功したパイロクロア構造を持つSn2Nb2O7において、正孔は主に化合物中のNb5+サイトをSn4+が置換した欠陥(SnNb')によって生成していることを実験からすでに明らかにしていたが、今年度は結晶構造が異なるフォーダイト構造をもつSnNb2O6においても、パイロクロア構造と同様にSnNb'によって正孔が生成していることを明らかにした。ここでパイロクロア構造とフォーダイト構造は、ともにNbを中心とした八面体(NbO6)の部分構造をもつ。パイロクロア構造に加えフォーダイト構造でも同様な正孔生成機構を示したことは、NbO6八面体部分構造が正孔生成に重要な役割を果たしていることを示唆している。またX線回折の詳細な検討からn型を示したSnNb2O6において、p型試料よりもNbO6八面体の酸素欠損が多く存在していたことから、試料の正孔濃度は、正孔を作り出す欠陥(SnNb')とそれを電荷的に補償する酸素欠損のバランスによって決まることを実験的に示した。さらにSn2Nb2O7とSnNb2O6に見られる正孔の生成効率の違いをNbO6八面体におけるNb-Oの結合距離の違いから説明を試みた。
p型薄膜の実現への試み p型化実現のため、スパッタリングによるSn2Ta2O7多結晶膜を作製し、酸素分圧の精密な制御雰囲気下でのポストアニールを行ったが現時点ではp型化に至っていない。一方、バルク体ですでに酸素欠損欠陥によるn型化に成功していたので、将来のホモ接合を想定したSn2Ta2O7のn型化を試みた結果、多結晶Sn2Ta2O7膜の還元雰囲気によるアニールによりn型化に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キャリア生成機構の解明では、Sn(II)系酸化物半導体において正孔を生成する欠陥が結晶構造の異なる二つの化合物、パイロクロア構造Sn2Nb2O7とフォーダイト構造SnNb2O6において同一であることを見出した。検討した二つの結晶構造中には、いずれもNbO6八面体の部分構造が存在し、その中心のNbに対する置換欠陥が正孔生成に寄与していることから、NbO6八面体部分構造が正孔生成に重要な役割を演じている可能性が明らかとなった。
デバイスに向けたp型薄膜化については、Sn2Ta2O7についてアニール時の酸化還元条件制御によるp型を目指したが、今年度は実現できなかった。これは薄膜のバルクに対する相対的に大きな表面積に起因するSn価数の制御の難しさのためと考えられた。次年度以降は今年度の知見を基に、アニール時の酸化還元雰囲気の制御に加え、不純物の置換欠陥による積極的な正孔生成を目指す方針を立てることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
キャリア生成機構の解明 今年度までの成果から、Sn(II)系酸化物において結晶構造中の八面体構造を形成するNbO6やTaO6の中心金属イオンがSn4+によって置換した欠陥が正孔生成に重要な役割を演じているとのモデルを得るに至った。このモデルに基づけば、八面体の部分構造をもつ新規Sn(II)酸化物においても同様な正孔生成が期待できる。さらにBi(III)など他の元素からなる同様に八面体をもつ化合物への展開も考えられる。これらの新材料のp型化を目指すことによって、正孔生成のモデルの妥当性を実証するとともに、有望なp型材料探索の指針を提示したい。
p型薄膜の作製とプロトデバイス化 これまでの研究から正孔濃度は正孔生成欠陥量と正孔を電荷補償する酸素欠損欠陥量のバランスに依存することが明らかになってきた。またアニール時の酸化還元条件の制御では適切なp型発現の条件を見出すことは難しいことがわかった。そこでいくつかの関連化合物に対し、不純物置換による積極的な正孔生成と適切な酸化還元条件による酸素欠損生成の抑制によるp型化を目指す。薄膜化には高価なターゲットを準備する必要がある。そのため、固相反応を利用したバルク体による評価から有望な母体材料や不純物元素を選択し、その知見をもとに薄膜化による実証を行う予定である。
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Causes of Carryover |
消耗品の調達において、安価な応札業者による予定価格からの乖離があったため。繰越金は5,903円と少額のため、次年度の助成金の使用計画に影響は与えない。
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Research Products
(7 results)