2019 Fiscal Year Research-status Report
3d遷移金属光触媒による高効率CO2還元を目指した反応機構解明と設計指針の提案
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18K05297
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伊勢川 美穂 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 助教 (30710488)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 二酸化炭素の還元 / 光触媒 / 電子状態理論 / 金属錯体 / 不均一系触媒 / 反応メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
科学技術の進歩に伴い化石燃料は大量消費されてきたが、その需要は依然として増加傾向にある。大気中CO2濃度の上昇/蓄積は気候変動を引き起こし、そして最終的には生態系に影響をおよぼすため、現代の深刻な環境問題となっている。CO2は炭素原子が最大限に酸化された状態であり非常に安定であるため反応を誘起させるのは難しい。したがって、その燃料もしくは有用物質への化学的変換には触媒が欠かせない。高い耐久性、効率性を示す触媒開発には触媒原理の解明が重要であり、量子化学計算は反応メカニズムの解明に有用な一つの手段である。特に密度汎関数理論(DFT)は、電子数に対してスケールされる計算コストが他の電子相関を考慮した方法に比べると低いため、触媒研究に多用されてきた。量子化学計算では実験において検出することが難しい高エネルギー状態の反応中間体や遷移状態を特定でき、実験データと組み合わせることで、より正確に反応を理解することができる。本研究は量子化学計算を手法とし、今後進展していくと予測されている触媒系について反応メカニズムを明らかにし、さらなる耐久性および高活性を兼ね備えた触媒の開発には何が必要か検討/提案することを目的としている。今年度は代表的な均一触媒系であるがその反応過程の全容が未だ解明されていないCO2還元のためのRe触媒系について調査を行った。また、CO2削減には化石燃料に変わる新燃料への転換が重要であり、特に水の電気分解による水素燃料の生成は理想である。したがって、我々は豊富なメタルからなる不均一系触媒による水分解について、ドーピングの効果などに焦点をあてた調査を行なってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
fac-[Re(bpy)(CO)3Br](bpy = 2,2’-ビピリジン) はCO2還元のための代表的な均一系光触媒の一つある。ジメチルホルムアミド(DMF)/トリエタノールアミン(TEOA)混合溶媒中でのRe錯体による光化学的CO2還元はLehnらによって初めて報告された。この触媒システムでは、Re錯体は光増感剤と触媒の両方として機能し、TEOAは犠牲還元剤として働く。主生成物はCOであり、副生成物としてRe-formate錯体が生成される。近年、この反応中間体として、モノアルキルカーボネート錯体が検出され、TEOA存在下においてはCO2が低濃度であっても効率的に捕捉されることが示された。さらに、RuRe超分子錯体ではCOの生成率とモノアルキルカーボネート錯体の存在率に線形性が確認され、モノアルキルカーボネート錯体がCO生成反応における活性種であることが予測された。我々は量子化学計算により、LehnらのRe触媒系において、モノアルキルカーボネート錯体の生成過程を明らかにするとともに、モノアルキルカーボネート錯体の触媒過程への寄与を考察した。計算した酸化還元ポテンシャルを用いて起こりうる酸化還元過程を予測することができた。また、これらのデータに加え反応中間体の熱力学的安定性及び速度論的データによりいくつかの起こりうる反応過程を提示することができた。また当初計画されていなかったより反応性が高いとされる不均一系触媒についても研究を開始した。このため研究はやや遅れぎみである。
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Strategy for Future Research Activity |
工業に応用される環境配慮型の触媒系構築においては、触媒に鉄などの豊富なメタルを使用すること、また有毒な有機溶媒の使用を避けることが重要である。近年、RuRe触媒が水溶液中のアスコルビン酸存在下でCO2還元に対する触媒活性を示すことが示された。この触媒系ではRuが光増感剤としてReが触媒活性中心として機能し、これら2つのユニットは架橋配位子により連結されている。このような超分子系では架橋配位子を工夫することで非連結系より光増感部位から触媒部位へ効率的に電子移動が起こることが報告されている。注目すべき点は、有機溶媒中では一酸化炭素(CO)が主要生成物なのに対し、水溶液中ではギ酸(HCOOH)が主要生成物であること、そして触媒活性度が有機溶媒中に比べて水溶液中では非常に低いことである。今後の研究課題としてDFT計算を用いて、まずアスコルビン酸からRuRe触媒への電子移動について酸化還元ポテンシャルに基づいて考察し、さらに水溶液中でのギ酸生成過程の詳細を酸化還元過程も含めて調査する。また、有機溶媒中で考えられているCO生成のメカニズムと比較することでギ酸生成を優位にさせる原因を明らかにする。また並行して光増感剤としてCu錯体、触媒としてFe錯体を使用されている触媒系についてCO2からCOへの変換メカニズムを解明する。鉄錯体は複数のスピン状態が関与している可能性があるため、DFT法よりも電子相関エネルギーを精度高く見積もるdomain-based local pair natural orbital (DLPNO-CCSD) 法を適用する予定である。
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Causes of Carryover |
海外旅費として申請した分をパソコン購入に当てる必要性が生じ、未使用分が発生した。
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Research Products
(5 results)