2020 Fiscal Year Research-status Report
3d遷移金属光触媒による高効率CO2還元を目指した反応機構解明と設計指針の提案
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18K05297
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伊勢川 美穂 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 学術研究員 (30710488)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 二酸化炭素削減 / 触媒 / 密度汎関数法 / 電子状態 / 反応メカニズム / 光触媒 / 電気触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在多くの化学物質は石油などの化石燃料を使用し製造されているが、化石燃料は確実に枯渇するため持続可能な生産手段でない。 また、化石燃料由来の物質は最終的にCO2として不可逆的に大気中に拡散されるため、気候変動の原因となる。したがって、化石燃料に依存しない原材料を使用し有用物質を生成する触媒開発が急務とされている。バイオマス誘導体はカーボンニュートラルな特性を持ち、持続可能であるため、期待できる物質製造のための原料の1つである。 バイオマス由来の生成物が最終的にCO2に変換され大気中にCO2として放出されたとしても、バイオマスの炭素源はCO2に由来するため大気中のCO2の増加につながることはない。また、すでに大気中に放出された化石燃料由来のCO2を減少させるために、CO2を効率的に捕獲しCO2を有用物質生成へ変換するための触媒開発に取り組む必要もある。 今年度は量子化学計算を手法としバイオマス誘導体として生成されるピルビン酸を利用した電気化学的アミノ酸合成の反応プロセスの解明に取り組んだ。我々は、表面酸素からのプロトンホッピングの記述のために、明示的な水を誘電体モデルに取り入れた反応モデルを構築した。そして、TIO2の電極上でのアミノ酸合成ではproton coupled electron transfer により効率性が増大していることを明らかにした。また、これまで我々はMn電気触媒、Re光触媒によるCO2還元反応のメカニズムを提案してきたが、これらの研究に引き続き、有機金属触媒の水溶液中での低活性の原因を明らかにすること、また3d金属からなる触媒系低活性の原因を解明することを目的とし有機金属触媒によるCO2還元の研究を遂行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
RuRe錯体では、Ru及びReユニットがそれぞれ光増感剤及び触媒として機能する超分子光触媒である。これまでの多くの実験研究は主に高活性/高効率を示す有機溶媒で行われてきた。しかし最近、アスコルビン酸を電子供与体として使用し水溶液中で、RuRe錯体によりCO2がギ酸に変換されることが報告された。主生成物はギ酸であり、83%の選択性で得られ、COとH2は副生成物である。一方、水溶液中とは異なり有機溶媒中ではCOが主生成物として得られる。また、水溶液中での選択性は有機溶媒を用いた場合の選択性より低いことがわかっている。これら有機溶媒中及び水中での反応性の違いが生じる原因を調査するために、量子化学計算を行った。 これまでの計算により酸化還元ポテンシャルより、(1) 1つのプロトンが離脱したのちRuRe錯体に電子を供与するが、2電子を供与することはないこと、(2) RuRe錯体の3重項状態は1重項状態より強い酸化力を示し、アスコルビン酸による電子還元が可能であること、また、(3) 副生成物であるCOの生成過程では、CO2がReに結合した中間体が得られるが、以前研究を行った単核のRe触媒ではCO2が金属中心に結合するために2電子還元が必要であるのに対し、RuRe錯体では1電子還元でCO2結合が可能であることがわかった。しかし全触媒サイクルの解明には至っていない。 2020年度は主に燃料電池におけるアミノ酸生成のメカニズムに主に取り組む必要があったため、研究は遅れぎみである。ただし、TiO2触媒はCO2還元反応についても活性を示すことが報告されており、今後進展させるTiO2によるCO2還元反応における異種元素ドーピングの効果の研究において重要であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
RuRe錯体によるCO2還元触媒過程の解明には全ての生成物へ至る遷移状態を求める必要があり、今後いくつかの求められていない遷移状態の決定を行う。また、明示的な水が及ぼす反応熱力学、反応速度論への影響も調査する必要がある。これらの調査結果を分析し水中でRuRe触媒が高い活性を示すにはどのような点を改善すべきか提案する。また、最近スピンクロスオーバー錯体である鉄触媒が銅錯体を光増感剤としてCO2還元を行うことが報告されている。スピンクロスオーバー錯体についてはその磁性に焦点をあてた電子状態研究が行われてきたが、CO2還元触媒の機能に焦点を当てた計算研究はこれまでなされていない。スピンクロスオーバー錯体はその磁性発現に温度依存性を示し、複数のスピン状態が近いエネルギーを持つため、それらすべてが反応に関与している可能性が高い。従ってスピン状態を正しく再現できる密度汎関数の選択をしなければならない。15%のHartree-Fock交換項を取り込んだB3LYP汎関数の振る舞いが鉄のスピンクロスオーバ錯体において良いことが報告されているが、その他の新に開発された汎関数についても検討する。また、触媒として機能する鉄錯体のみでなく、銅光増感剤の光励起過程も時間依存密度汎関数(TD-DFT)法を用いて詳細を明らかにしていく必要がある。不均一系触媒によるCO2還元ついては、改善すべき点として生成物選択性が挙げられる。計算研究においては複数の異種元素のドーピングを行いその電子状態への影響や反応障壁への影響を調査し選択性を高めるための方法を提案する予定である。当初は不均一系触媒のCO2還元反応の研究は計画されていなかったが、不均一系触媒は一般的に活性が高く実用的なCO2還元触媒としての応用が期待されるため、均一系触媒研究と並行して遂行していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で学会旅費の必要がなかったため。
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Research Products
(1 results)
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[Journal Article] [NiFe], [FeFe], and [Fe] hydrogenase models from isomers2020
Author(s)
Ogo, S. Kishima, T. Yatabe, T. Miyazawa, K. Yamasaki, R. Matsumoto, T. Ando, T. Kikkawa, M. Isegawa, M. Yoon, K. S. Hayami, S.
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Journal Title
Science Advances
Volume: 6
Pages: eaaz8181
DOI
Peer Reviewed / Open Access