2019 Fiscal Year Research-status Report
太陽光による環境浄化を指向した混合原子価状態制御による高活性な光触媒材料の開発
Project/Area Number |
18K05298
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
山崎 鈴子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (80202240)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 可視光応答型光触媒 / 金属イオンドープ / 電荷キャリア寿命 / 環境浄化 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度確立したバナジウムイオンドープ酸化チタン合成法を用いて、アセトアルデヒド分解に対する可視光照射下での光触媒活性を調べたところ、ドープ量:1.0 atom%、焼成温度:500℃の場合に最大活性が得られた。X線光電子分光法による測定では、原料として用いた3価のバナジウムイオン以外に、4価と5価が検出された。ドープ量を0.5、1.0、1.8 atom%に変えた場合には、いずれにおいても4価の状態が70~80%を占めており、1.0 atom%の場合の5価の存在率が最大(26%)であった。一方、X線吸収端微細構造の測定では、いずれのドープ量においても、バナジウムK端にプレエッジピークが観察でき、そのスペクトル形状からバルクでは5価の状態で存在していることが示唆された。また、前駆体ゾルを導電性ガラスにディップコーティング後、500℃焼成により電極を作製して、光電流を測定した。その結果、バナジウムイオンのドーピングにより、可視光照射下でも光電流が発生すること、さらに、粉末の光触媒活性同様に1.0 atom%において最大の光電流値が得られることがわかった。また、本研究の最終年度には、水に浮遊する光触媒材料の開発も目的としていることから、中空の光触媒合成法の開発についても研究を進めた。グルコースを原料として様々な反応条件下で水熱合成を実施して炭素球を合成し、滑らかな表面を有する球状粒子作製のための最適合成条件を得た。合成した炭素球上に酸化チタンをコーティングし、焼成により中空状態を作製することを目的に、様々な条件で実験を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の研究室では、太陽光照射下で高活性な白金イオンドープ酸化チタンの合成法を確立し、ドーパントの金属イオンが複数の原子価状態を有することで、再結合が抑制でき、光触媒活性が向上するという独自の仮説を立てている。本研究の目的は、(1)高価な白金イオンに代替可能な金属イオンドーパントを明らかにし、その光触媒粉末の合成法の確立、(2)水に浮遊する光触媒ペレットの合成、(3)太陽光照射下で高活性な水に浮遊する金属イオンドープ酸化チタンの合成である。我々の仮説に基づいてこれらの目的を達成することで、仮説の実証にもつながると考えている。昨年度は、白金イオンドープ酸化チタンを用いて、光吸収により生成する電子やホールの寿命を測定し、表面に存在するPt(II)とPt(IV)のモル比(Pt(II)/Pt(IV))が大きいほど、電荷キャリアの寿命が長く、高活性化することを実験的に証明した。これは上記の仮説が正しいことを支持する結果である。さらに、白金イオン同様に複数の原子価状態をとることのできる金属イオンに着目して、ドーピングによる光触媒活性の向上を狙って実験したところ、バナジウムイオンが優れていることを見出した。バナジウムイオンの場合にも、触媒の合成条件によって、V(III)、V(IV)、V(V)の存在比率が異なっており、原子価状態と光触媒活性との間に関係があるように思える。3つの原子価状態が存在するので、関係性の解明は白金イオンよりも困難であろうが、次年度にはキャリア寿命の測定などを行って明らかにしていきたいと考えている。現象論的には、既に光触媒活性の高い合成条件は明らかにしているので、目的(1)は達成済みである。さらに、水質浄化材料にするための水に浮遊する中空光触媒合成法も確立しつつあるので、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
電荷キャリア寿命の測定は、外部機関で実施しているので、取得可能なデータ数が限られている。この理由から、光触媒前駆体ゾルを用いて電極を作製し、光電流を測定することで、光吸収により生じる電子数に関する情報を得ることを考え、その手法を確立した。次年度は、バナジウムイオンや白金イオンをドープした酸化チタン電極を様々な条件で作製し、金属イオンの原子価状態、光電流値および光生成キャリアの寿命の関係性を明らかにする。そして、これらの金属イオンドープ酸化チタンを炭素球にコーティングし焼成することで、水に浮遊する光触媒ペレットを作製して、水中の有機汚染物質の分解・無害化を実施する。現在は水熱法を用いて炭素球を合成しているが、高圧をかけるために、1回の合成では少量しか作製できていない。そこで、炭素球の合成量を増やす、あるいは炭素球の代わりに、ポリスチレンや中空ガラスを用いるなどの方法も試みる計画である。
|
Causes of Carryover |
当初は、様々な金属イオンドープ酸化チタンを合成し、それらすべてのX線光電子分光(XPS)測定やX線吸収端微細構造(XANES)測定を実施する計画であった。前者は学内共同利用機器、後者はシンクロトロン放射光施設での機器利用によるものである。しかし、初年度の研究を進める上で、電気化学的測定が有用であると考えるに至り、その手法確立のために時間を要したことから、初年度の計画がやや遅れていた。そこで、本研究のために合成し、光触媒活性を評価したすべての金属イオンドープ酸化チタンのX線分光法データを揃えることを断念し、白金イオンに匹敵する最も高活性なバナジウムイオンの場合のみ測定を実施した。また、水熱合成に必要な高圧用ステンレス容器を新しく購入せず、現有の容器を使用し、内容物を入れるテフロン容器のみを新規購入した。その結果、未使用額が生じた。 次年度には、水熱合成による炭素球の合成量を増やすために、高圧用ステンレス容器を購入する。さらに、Pacifichem 2020(米国ハワイ、12月)、アジア光化学会議(APC, 韓国ソウル、11月)に出席して研究発表を行うこととし、未使用額はそれらの経費にあてることとしたい。
|
Research Products
(5 results)