2018 Fiscal Year Research-status Report
人工球状タンパク質超分子を用いたナノスケール相分離の実現とその応用
Project/Area Number |
18K05324
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川上 了史 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (60566800)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | タンパク質ナノ粒子 / 超分子 / 自己組織化 / 相分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまでに設計と構築に成功してきた、中空人工タンパク質ナノ粒子TIP60を用いて、そのナノ粒子カプセルの内外で相分離を実現することにある。相分離の実現のため、親水性の高いタンパク質表面を疎水化する必要があった。しかし、直接的かつ部位特異的に化学修飾を行うのに適したシステイン残基がTIP60には一つも含まれていないことから、まず、そのシステイン導入変異体を設計する必要があった。対象とするのは、セリン残基である。TIP60の内外には多数のセリン残基が存在することから、構造的差異の小さいシステインを導入しても構造が壊れるといった可能性は低いことが予想された。そこで、これまでに精製に成功していた6つの変異体に1つのシステイン変異体を加えて、計7個の変異体の精製を行った。変異体については、非変性の電気泳動や動的光散乱を用いて、その構造が適切に保たれていることを確認した。一方、一部の変異体では、TIP60間でジスルフィド結合が生じていることをすでに明らかにしていたものの、TIP60の分子内部でジスルフィドが生じている可能性については未検討であった。特に化学修飾の際にはジスルフィド結合が形成されていると、修飾効率が低下しうることから、これを確認する必要があった。想定した立体構造からは分子内ジスルフィド結合はないと考えていたが予想に反して、全ての変異体で、部分的に分子内部で形成されたジスルフィド結合の存在が電気泳動による分析で確認された。その後の実験で、これらのジスルフィド結合は実験操作で生じたアーチファクトであることを解明できた。そこで、全ての変異体について、化学修飾ができるか否かを検討した。その結果、カプセルの内外で、わずかに修飾速度が異なるものの、基本的には内外ともに化学修飾ができることを明らかにした。また、本件については、論文で発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来、変異体について、TIP60の内側と外側に分けて、システインを複数導入した多重変異体の設計と構築を検討していた。しかし、実験の操作によって生じたアーチファクトであったものの、TIP60分子内でジスルフィド結合を形成していることが示唆される結果が得られたことで、その解明に想定以上の時間を要した。そのため、多重変異体の創製はやや遅れた。しかし、変異体をコードする遺伝子の獲得はできており、また、それ以降の課題としていた化学修飾の手法を確立できたことで、計画通りにTIP60の内外の修飾実験に着手できると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
多重変異体の精製系の確立に着手することや、その化学修飾実験を遂行する。特に、これまでは、蛍光色素など比較的水溶性が高いものでテストしてきたが、今後は、実際の総分離実現に向けた疎水性化合物を用いたシステイン残基の修飾を検討する。また、内側、あるいは外側一方だけを極端に疎水化することで、TIP60が破壊されるような現象が生じるか否かを確認する。まず、修飾速度も早く、精製系も確立された外側のシステインを対象として疎水化を行い、不溶化するか否かを検討する。仮に不溶化が進行すれば、これを有機溶媒へ抽出する系の確立を行う。
|
Causes of Carryover |
本来、すべての変異体構築とその精製系を構築し、大量精製の目処が立つところまでを当該年度の計画としていたが、想定外の分子内ジスルフィド結合形成が生じたことで、その解明のために大量精製系までの確立が困難となった。そこで、大量精製系を翌年度以降の課題とし、当該年度は本研究の障害になりうる分子内ジスルフィド結合形成の機構解明に時間を当てた。こちらは、少量のスケールで実験実施が可能であったことで、次年度使用額が生じる理由となった。
|
Research Products
(11 results)