2018 Fiscal Year Research-status Report
鉄欠乏に応答した根-葉-根間の長距離シグナル伝達機構解明
Project/Area Number |
18K05373
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田畑 亮 名古屋大学, 生命農学研究科, 特任講師 (30712294)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 長距離シグナル / 鉄欠乏応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は、一部の根で栄養欠乏を感知した際、他方の根から相補的に吸収することで、個体全体として取り込み量を最適に保つシステムを保持している。植物は、窒素と同様に、鉄イオンの局所的な欠乏に対しても、このシステムを持っている。しかし、その制御機構は明らかになっていない。本研究では、土壌中の不均一栄養環境を模倣したSplit-root培養法を利用したトランスクリプトーム解析を通して、鉄欠乏に応答した根―葉-根間の長距離シグナル伝達機構を明らかにすることを目的としている。 まず、シロイヌナズナのSplit-root鉄欠乏処理時の、根と葉における時系列RNA-seq解析を実施した。RNA-seq解析より、植物は一部の根で鉄欠乏を感知すると、24時間をピークとして、周辺に鉄が十分に存在する根において、相補的に鉄の取り込み・代謝を連動して活性化していることが明らかになった。また、「葉から根」への移動が推定される因子としてDefensin-like proteinなど分泌型ペプチドを含む5つの候補因子を単離できた。現在これら候補因子について、ゲノム編集によって破壊株の作成を進めており、鉄欠乏応答性の長距離シグナルにおける役割について検証している。また、候補因子の1つのAt1g47400の過剰発現体では、Split-root鉄欠乏培養時の鉄トランスポーター発現上昇が見られた。一方、現時点では「根から葉」へ移動することが推定される候補ペプチドの単離には至っていないが、鉄欠乏区の根で特異的に発現上昇する遺伝子群の解析を通じて、機能未知遺伝子が見つかり、その機能欠損変異体では、局所的な鉄欠乏に誘導される相補的な鉄トランスポーターの発現上昇が抑制されていた。したがって、この機能未知遺伝子が、鉄欠乏応答性の長距離シグナル伝達において、重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、シロイヌナズナSplit-root鉄欠乏培養を用い、一部の根における鉄欠乏時に「Split-root間のそれぞれの根」および「地上部」をサンプリングして、経時的なトランスクリプトーム解析を行い、鉄欠乏に応答した長距離移動性シグナル分子および制御因子の単離を進めた。 時系列RNA-seq解析結果より、「葉から根」への移動が推定される因子としてDefensin-like proteinなど分泌型ペプチドを含む5つの候補因子を単離できた。また、鉄欠乏区の根で特異的に発現上昇する遺伝子群の解析を通じて、機能未知遺伝子が見つかり、その機能欠損変異体では、局所的な鉄欠乏に誘導される相補的な鉄トランスポーターの発現上昇が抑制されていた。 現在、これら全ての候補因子の破壊株の入手や作成、および過剰発現体作成によって、候補因子の長距離シグナルにおける役割について解析を進めており、平成30年度の計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り、時系列RNA-seq解析結果より単離できた候補因子群について、破壊株の入手や作成、および過剰発現体作成によって、局所的な鉄欠乏応答性の長距離シグナルにおける役割について解析を進める。また、既知の鉄欠乏応答に関わる転写因子群や、植物体内の鉄の分配に関わるトランスポーターの変異体を用いて、これらの因子の長距離シグナルにおける役割も検証する。これらの結果を通して、既知の因子と、本研究で単離されてきた候補因子との関係性についても検証する。
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Causes of Carryover |
研究計画どおり、Split-root鉄欠乏培養時における時系列トランスクリプトーム解析を実施して、有力な候補因子が多く単離できたため、一気に破壊株作成、過剰発現体作成、および機能解析を進める必要が生じた。そこで、令和元年は、費用の一部を人件費に充てて、候補因子の機能解析を進める予定である。
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