2018 Fiscal Year Research-status Report
根粒菌ーマメ科植物共生系における共生生物間の鉄輸送システムの解明
Project/Area Number |
18K05374
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲葉 尚子 京都大学, 生存圏研究所, 研究員 (60771699)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増田 幸子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (50773347)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 共生菌 / 輸送体 / 微量元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイズ根粒内感染細胞において植物細胞側と根粒菌バクテロイド側はシンビオソーム膜により隔離される。シンビオソーム膜に局在し植物細胞側からバクテロイド側へ鉄を輸送するタンパク質を同定するため、鉄欠乏根粒で高発現となるシンビオソーム膜タンパク質を探索する。 初年度は鉄欠乏根粒を着生する生育条件を検討した。まずプラントボックスに滅菌したバーミキュライトを詰め、2つの異なる鉄濃度(20 μM, 2 μM)のMMM培地を水耕液として与え根粒菌を接種しダイズを栽培した。回収した根粒の鉄濃度を測定したところ、2 μM区で9.06±2.67 mmol/g DW、0.2 μM区で8.81 ±2.67 mmol/g DW(mean±SD)と有意差は見られなかった。そこでバーミキュライトから水で抽出される鉄濃度を測定したところ、計算上プラントボックス内のバーミキュライトからは20 μM区の2倍の鉄が溶出することが明らかになった。そこで、バーミキュライトの代わりに、水で抽出される鉄がほとんどない豊浦砂を栽培に用いた。しかしながら両処理区間の根粒鉄濃度には差が見られなかった。現在、鉄を全く加えない水耕液(0 μM)の処理区を加えて栽培を行っている。また、プラントボックス以外に、資材の鉄濃度の影響を受けないと予想されるシードパックを用いた栽培も行っている。 また、今後見出す候補輸送体の機能解析を本来のホストを用いたダイズ毛状根形質転換系で行う予定であるが、この系の構築のために、これまでにシンビオソーム膜局在鉄輸送体と報告されているGmDMT1の毛状根形質転換体の作製を試みた。GmDMT1の内部配列をCRISPR/Cas9ベクターpMgP237に導入し、Agrobacterium rhizogenes K599株の形質転換を行なった。K599株の形質転換体をダイズ子葉に感染させ毛状根を作製した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
根粒を着生しない水耕条件ではMMM培地でダイズを鉄欠乏にすることがわかっていたが、根粒着生のため資材を入れたポット栽培では鉄欠乏にすることが容易ではなかった。鉄欠乏根粒着生条件の検討に予想外に時間がかかっているが、毛状根形質転換体作成の方は想定より進捗しているため、おおむね順調と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず今年度は前半期に鉄欠乏根粒を着生させる。上記の豊浦砂、シードパックいずれも鉄欠乏にできなかった場合、さらに不純物が少ないと考えられるウレタンスポンジを資材として用いる。得られた鉄欠乏根粒からシンビオソーム膜を回収し、プロテオーム解析により、鉄十分根粒に比べ発現が上昇するタンパク質をリストアップする。それらの中から鉄など微量元素輸送体ファミリーとして報告のあるものを有力な鉄候補輸送体とし、ダイズ毛状根形質転換体を作製、根粒を着生させて根粒の表現型や窒素固定能を調べ、窒素固定能が失われるなど本来のホストであるダイズで機能解析を行う。また、鉄の安定同位体を取り込ませ、バクテロイドへの鉄輸送機能が損なわれた変異体でノックアウトした遺伝子を目的の輸送体遺伝子と同定する。 ダイズ毛状根形質転換体については、毛状根作製まではできたものの植え継ぎ後の増殖、継代および根粒着生はまだ出来ていない。植え継ぎ後に増やせていない原因としては培地の栄養塩濃度が高すぎることが考えられるので、ダイズにK599株形質転換体を感染後生育させる培地を現在のMS培地から1/2培地に変更する。また、根粒菌を毛状根に接種する方法としては根粒菌を懸濁した寒天培地を用いる予定である。これらはすでに報告されている手法であり実現可能性は高いので、条件検討して進めていく。 現状大きな方向転換は必要ないと考えており、申請書の研究実施計画に沿って進めていく。
|
Causes of Carryover |
前年度は鉄欠乏根粒の作製まで到達できなかったため、プロテオーム解析に用いる試薬の購入が次年度以降に持ち越された。また、ダイズ栽培のためにグロスチャンバーの購入を予定していたが、研究室にある同スペックのグロスチャンバーで生育させたところ光量不足であると観察されたため、自然光を取り入れるガラス室で栽培することに予定を変更したので、グロスチャンバーを購入する必要がなくなった。 次年度はプロテオーム解析の試薬の他、ダイズ毛状根形質転換体作製にかかる費用の支出を予定している。また、研究打ち合わせおよび学会参加にかかる旅費としての支出も予定している。
|