2018 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムマイニングによる真菌類由来のサイレントな新奇バイオマス高分解酵素の探索
Project/Area Number |
18K05383
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡部 昭 東北大学, 農学研究科, 助教 (70302198)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ゲノムマイニング / Glycoside hydrolase / β-グルコシダーゼ / キシラナーゼ / 反応生成物阻害 / サイレント / GH1 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、データベース(CAZy)を用いて、麹菌ゲノム上に存在するGlycoside hydrolase family(GH)タンパク質群の中から推定β-グルコシダーゼ(Bgl)遺伝子25個と8個のキシラナーゼ(Xyn)遺伝子を選抜した。次に、タンパク質局在部位予測プログラム(PSORT、SignalP 4.0)によって局在部位を推定した。すると、上記25個の推定Bglのうち22個がGH3に、3個がGH1に属し、前者22個は麹菌では菌体外への分泌型、後者3個はシグナル配列を有さないことから菌体内局在酵素と推定された。一方、8個のXynはGH10、11に4個ずつ属し全て分泌型と推定された。これらのうち、推定Bgl16個(GH3)と3個(GH1)、GH10、11の2個ずつのXynが未解析であった。そこで、Xynはその麹菌での高発現株を作製した。そのうち活性を示したXynBについてカラムクロマトグラフィー等で精製し、その酵素学的諸性質を明らかにした。その結果、XynBは60℃までと高い温度安定性を示し、キシロテトラオース(X4)以上の鎖長のキシロオリゴ糖に対して加水分解活性を示すエンド型酵素であると判明した。また、BglについてはGH1に属する酵素の解析例が少ないので先行して解析することとし、3個とも麹菌菌体内に局在すると推定されたので、大腸菌での高発現株を作製し解析した。このうちBglU/Bgl5のみが活性を有していたため、精製しその酵素学的諸性質を明らかにした。その結果、グルコースによる反応生成物阻害がBglにとって最大の問題点でありその影響を調べたところ、本酵素は反応系に200mMのグルコースを含んだ場合に約80%、500mMのグルコースを含んだ際には約50%の活性を示し、これまで報告のある麹菌のGH1、3に属する酵素の中では最も高い耐性を有する特徴を持った有用な酵素であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である本年度の計画は、(1)真菌類のサイレントな新奇推定セルラーゼ遺伝子の網羅的探索・選抜、(2)麹菌を宿主とした各新奇推定セルラーゼ高発現株の作製であり、具体的には、1)データベース(CAZy)を用いて、Glycoside hydrolase family(GH)タンパク質群の中からサイレントな推定セルラーゼ遺伝子の網羅的選抜 2)既知のセルラーゼとの相同性の有無等のタンパク質モチーフ検索プログラム(InterProScan)による解析 3)タンパク質局在部位予測(PSORT)、分泌シグナル配列予測(SignalP 4.0)プログラムによるタンパク質局在部位の推定 4)1)~3)で選抜された対象とするタンパク質の構造遺伝子のPCR法による増幅、麹菌への導入による高発現株の取得 5)得られた高発現株を培養しタンパク質発現後のSDS-PAGEによる目的タンパク質の発現確認であった。 このうち、「研究実績の概要」の項で述べたとおり、麹菌ゲノム上の推定β-グルコシダーゼ(Bgl)とキシラナーゼ(Xyn)については、上記1)から5)を実施しさらに各高発現株の中から2つ酵素について精製しその諸性質を調べ、前者ではBglの最大の問題点であるグルコースによる反応生成物阻害に対して高い耐性を有する特徴を持った有用な酵素(BglU/Bgl5)が取得でき、Xynでは60℃までと高い温度安定性を保持したXynBを獲得できた。 このように、ゲノムマイニングの手法によって新奇で有用なバイオマス分解酵素の一部が取得できており、今後ゲノムマイニングで対象とする真菌、酵素の種類を増やしさらなる有用酵素の探索を継続していくが、現段階では本課題は「おおむね順調に進展している。」ものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度である本年度は、麹菌ゲノムからゲノムマイニングの手法によって新奇で有用なバイオマス分解酵素(グルコースによる反応生成物阻害に対して高い耐性を有する特徴を持った酵素(BglU/Bgl5)と60℃までと高い温度安定性を保持したXynB)を取得できたが、まだ当初の目的である有用な新奇バイオマス高分解酵素の取得という点で十分ではない。そこで、今後ゲノムマイニングで対象とする真菌、酵素の種類を増やしさらなる有用酵素の探索を継続していく。 また、平成31年度以降の計画((1)麹菌で高発現させた各新奇推定セルラーゼの精製、(2)各新奇推定セルラーゼの難分解性バイオマス分解能の評価)として、1)取得した各新奇推定セルラーゼ高発現株の大量培養、各種クロマトグラフィーによる精製法の確立、各タンパク質の精製標品の調製、2)本申請課題で取得を目的とする難分解性バイオマスの高分解能を保持した酵素の選別・評価のLangston らの方法(2011)に従った実施を行う。特に2)については、各酵素の存在・非存在下で以下のように解析する。i)適当なバッファーに結晶性セルロース(Avicel)を懸濁し、各新奇推定セルラーゼ及びポジティブコントロールとしてHypocrea jecorina Cel7A、Cel5Aをそれぞれ個々の最適条件で反応、ii)各酵素タンパク質とAvicelの反応後の産物中の単糖類と二糖類の合計量をHPLCによる示差屈折法で測定、iii)H.jecorina Cel7A、Cel5Aでの反応産物から検出される単糖類と二糖類の合計量の高い方を100とし、各新奇推定セルラーゼとAvicelの反応後の単糖類と二糖類の合計量との比較によるセルロース分解能の評価で、その結果、H.jecorina Cel7A、Cel5Aでの反応よりも高い値を示すものを選抜し新奇バイオマス高分解酵素の取得を目指す。
|
Causes of Carryover |
本年度購入予定で申請した分光光度計(Ultrospec 7000 with Printer 一式)は、本申請課題で取得した新奇酵素の活性測定に必須の機器であり計上したが、所属の研究室で現在保有している類似の機器が老朽化が著しいものの今だ使用可能で、今年度に新規購入(更新)しなかったためこのような次年度使用額が発生した。 また、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画については、消耗品は麹菌を始めとする真菌類の発現タンパク質の機能を解析する時に、その構造遺伝子をPCR 反応で取得する際使用する試薬類が高価なため、申請時に計上した額以上必要になることが十分想定され必要に応じて購入することとする。旅費については、本申請課題で得られた成果を学会等で発表する際計上額程度が必要となり、人件費・謝金は、本申請課題で得られた成果を論文投稿する際の英文校閲に必須となる。その他の研究成果投稿料は、本申請課題で得られた成果を論文投稿する際各掲載誌の出版社側が要求してくる一般的な額を計上したもので妥当と考えられる。
|
Research Products
(2 results)