2019 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムマイニングによる真菌類由来のサイレントな新奇バイオマス高分解酵素の探索
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18K05383
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡部 昭 東北大学, 農学研究科, 助教 (70302198)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Glycoside hydrolase / ゲノムマイニング / β-グルコシダーゼ / キシラナーゼ / GH1 / サイレント / セルロース結合ドメイン / GH10 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続き麹菌ゲノム上に存在するGlycoside hydrolase family(GH)タンパク質群のうち、BglU/Bgl5の他に2つ存在するGH1に属する推定β-グルコシダーゼ(BglV,BglW)について,その高発現株の作製を実施した。GH1に属するこれらの酵素はいずれも菌体内に局在すると予測されたので、まず大腸菌発現系での発現を試みた。昨年度から解析中のBglU/Bgl5はこの大腸菌の系で発現し活性も保持していたが、BglVは本酵素の推定分子量の大きさの位置に電気泳動でタンパク質が検出されるものの、ほとんど全てが活性を持たない不溶性の封入体画分に検出された。一方、BglWについては本発現系ではタンパク質の発現が見られなかった。そこで、麹菌そのものを宿主とし麹菌の菌体外への分泌可能な系として、麹菌のグルコアミラーゼAとの融合タンパク質として発現させ、麹菌での分泌発現系構築を試みたが、どちらの酵素とも分泌が見られなかった。こうした結果から、最終的に麹菌菌体内で発現させることとし、BglV、W両酵素のN末端にHis-tagを付加したタンパク質発現系を構築し解析したところ、両酵素とも麹菌の菌体内で発現し、活性を保持していることが確認できた。 一方、キシラナーゼについてはGH10に属するXynAが、推定のものを含め麹菌ゲノム上に8個存在するキシラナーゼのうち、唯一セルロース結合ドメイン(CBM)を有することから、バイオマス高分解活性を有することが期待されるため、その高発現系の構築を行った。大腸菌発現系では活性は確認できたものの、発現したタンパク質量が少なかったことから、麹菌発現系を用いることとした。コンピューター解析の結果、本酵素のmRNAは選択的スプライシングを受けることが判明したので、スプライシングの有・無しの両者の発現系を構築し、解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度に引き続き麹菌のサイレントな新奇推定セルラーゼ遺伝子の網羅的探索の結果、存在が明らかとなったGlycoside hydrolase family(GH)タンパク質群の中から、解析例の少ないGH1に属する2つのβ-グルコシダーゼ(BglV、W)とGH10に属するキシラナーゼ(XynA)の大腸菌、麹菌を宿主とした各高発現株の作製を行った。具体的には、糖質分解酵素データベース(CAZy)、タンパク質局在部位予測(PSORT)、分泌シグナル配列予測(SignalP 4.0)プログラムによるタンパク質局在部位の推定から、菌体内に局在すると推定された酵素については、まず以後の解析が容易な大腸菌発現系で発現を試み、本系でうまく発現しないものは麹菌そのものを宿主として高発現系を構築した。 このうち、「研究実績の概要」の項で述べたとおり、麹菌ゲノム上の推定β-グルコシダーゼ(Bgl)とキシラナーゼ(Xyn)について、昨年度取得したBglU/Bgl5、XynBの各高発現株に比べて、タンパク質の推定局在部位の点やmRNAが選択的スプライシングを受けることから高発現株の作製が困難であったBglV、W、XynAについて、その高発現株の作製に成功した。 BglV、Wは、ともに菌体内に局在する酵素である点で、その反応基質特異性がこれまで報告のある酵素とどのように異なるかに興味が持たれ、またXynAについては麹菌ゲノム上に存在する8個のキシラナーゼのうち唯一セルロース結合ドメイン(CBM)を有することから、バイオマス高分解活性を有することが期待され、今後の解析が待たれる。 このように、ゲノムマイニングの手法によって、昨年度に続き新奇で有用なバイオマス分解酵素が取得できているものと考えられ、現段階では本課題は「おおむね順調に進展している。」ものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、麹菌ゲノムからゲノムマイニングの手法によって新奇で有用なバイオマス分解酵素と考えられる、解析例の少ないGH1に属する2つのβ-グルコシダーゼ(BglV、W)とGH10に属するキシラナーゼ(XynA)高発現株を取得できた。今後は、さらに有望と推定される酵素についてその高発現株の取得を実施する。そのため、ゲノムマイニングで対象とする真菌、酵素の種類を増やしさらなる有用酵素の探索を継続していく。 また、令和元年度以降の計画((1)麹菌で高発現させた各新奇推定セルラーゼの精製、(2)各新奇推定セルラーゼの難分解性バイオマス分解能の評価)として、1)取得した各新奇推定セルラーゼ高発現株の大量培養、各種クロマトグラフィーによる精製法の確立、各タンパク質の精製標品の調製、2)本申請課題で取得を目的とする難分解性バイオマスの高分解能を保持した酵素の選別・評価のLangston らの方法(2011)に従った実施を行う。特に2)については、各酵素の存在・非存在下で以下のように解析する。i)適当なバッファーに結晶性セルロース(Avicel)を懸濁し、各新奇推定セルラーゼ及びポジティブコントロールとしてHypocrea jecorina Cel7A、Cel5Aをそれぞれ個々の最適条件で反応、ii)各酵素タンパク質とAvicelの反応後の産物中の単糖類と二糖類の合計量をHPLCによる示差屈折法で 測定、iii)H.jecorina Cel7A、Cel5Aでの反応産物から検出される単糖類と二糖類の合計量の高い方を100とし、各新奇推定セルラーゼとAvicelの反応後の単糖類と二糖類の合計量との比較によるセルロース分解能の評価で、その結果、H.jecorina Cel7A、Cel5Aでの反応よりも高い値を示すものを選抜し新奇バイオマス高分解酵素の取得を目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度同様、本申請課題期間初期に購入予定で申請した分光光度計(Ultrospec 7000 with Printer 一式)は、本申請課題で取得した新奇酵素の活性測定に必須の機器であり計上したが、所属の研究室で現在保有している類似の機器が老朽化が著しいものの今だ使用可能で、今年度に新規購入(更新)しなかったためこのような次年度使用額が発生した。 また、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画については、消耗品は麹菌を始めとする真菌類の発現タンパク質の機能を解析する時に、その構造遺伝子をPCR 反応で取得する際使用する試薬類が高価なため、申請時に計上した額以上必要になることが十分想定され必要に応じて購入することとする。旅費については、本申請課題で得られた成果を学会等で発表する際計上額程度が必要となり、人件費・謝金は、本申請課題で得られた成果を論文投稿する際の英文校閲に必須となる。その他の研究成果投稿料は、本申請課題で得られた成果を論文投稿する際各掲載誌の出版社側が要求してくる一般的な額を計上したもので妥当と考えられる。
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Research Products
(4 results)