2018 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集技術が拓く遠赤色光をも利用できる特異な非モデル藍藻研究の新展開
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18K05389
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土屋 徹 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (20362569)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / クロロフィルd / 光合成 / 遠赤色光 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに確立したAcaryochloris marinaでの形質転換系を利用して、本生物でのゲノム編集技術の開発を進めた。シアノバクテリアを含む多くの細菌で保持されることが知られている広宿主域プラスミド由来のベクターを用いて、ゲノム編集に必要な遺伝子などの導入を試みた。具体的には、ゲノム編集においてよく使用されているヌクレアーゼであるCas9タンパク質の遺伝子とCas9タンパク質の標的配列を定めるsgRNAの発現カセットおよび相同組換え用のホモロジーアームの3つのDNA断片をプラスミドベクターを利用して保持させることを企図した。プラスミドベクターは、接合法によって大腸菌からA. marinaに伝達させた。その結果、Cas9遺伝子を保持する形質転換体を得ることはできなかった。シアノバクテリアなど、いくつかの生物では最近Cas9タンパク質の毒性について報告されていることから、Cas9タンパク質はA. marinaに対しても毒性があるのではないかと考えられた。そこで、Cas9タンパク質よりも毒性が低いとの報告があるCpf1(Cas12a)タンパク質の遺伝子をCas9遺伝子の代わりに導入することを試みた。様々な条件を検討した結果、Cpf1遺伝子を保持するA. marinaの形質転換体を得ることに成功した。A. marinaへのCpf1遺伝子の導入に成功したことで、ようやくcrRNA発現カセットやホモロジーアームの導入の検討に進むことが可能となった。今後のさらなる条件検討が必要とされるものの、本研究での核となる技術の開発に一定の目処がたったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、A. marinaでのゲノム編集技術という、本研究での核となる技術の開発において進展が見られた。これまでA. marinaのゲノムを狙ったように改変する、いわゆる「遺伝子ターゲッティング」技術が確立していないことが、本生物の分子遺伝学的研究の大きな妨げとなっていた。毒性が懸念されていたCas9タンパク質の遺伝子に代わりCpf1タンパク質の遺伝子を使用することで、毒性の問題が解決されたことが大きな前進であった。また、Cpf1遺伝子は約4 kbの大きな遺伝子であり、導入するためのプラスミドベクターのサイズが非常に大きくなったため導入効率の低下が予想されたが、接合伝達により十分に導入可能であることが判明したことも今後の進展につながる大きな知見となった。次年度以降、crRNA発現カセットとホモロジーアームの導入の条件を検討することで、A. marinaでのゲノム編集技術が確立できるのではないかと期待される。 以上を鑑みて、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に進展のあったA. marinaでのゲノム編集技術の開発に注力する。導入に成功したCpf1遺伝子のみならず、crRNA発現カセットとホモロジーアームを導入する条件も検討してゲノム編集技術を確立する。ゲノム編集の標的としては、光化学系IIのサブユニットへのヒスチジンタグの導入を優先する。これは、他の光合成微生物での実験結果より、このような変異の導入が細胞の増殖に影響を与えないことが期待されるからである。また、これまでにモデルシアノバクテリアであるSynechocystis sp. PCC 6803で確立したCRISPR干渉(CRISPRi)をA. marinaでも可能にすることを目指す。CRISPRiでは、Cas9タンパク質の変異体であるdCas9の遺伝子とsgRNA発現カセットを導入する必要があるが、dCas9遺伝子と同程度のサイズのCpf1遺伝子のA. marinaへの導入にはすでに成功しているので、技術的には問題ないと考えられる。そこで、dCas9遺伝子とsgRNAの発現など、A. marinaでのCRISPRiに適した条件を検討する。
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