2019 Fiscal Year Research-status Report
放線菌門がもつタンデム型ABCトランスポーターの構造機能と生理的意義の解明
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18K05398
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
矢嶋 俊介 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (90301548)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | X線結晶構造解析 / 基質認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
ABCトランスポーターは細菌からヒトに至るまですべての生物において存在し、糖、アミノ酸、微量化合物などの細胞への出入りという基本的な生理機能を担う重要な役割を果たしている。申請者はMicrobacterium hydrocarbonoxydansのヒドラジド分解を担うオペロン中に、ジペプチドトランスポーターとアノテーションされる蛋白質と、新たな構造を有する可能性をもつABCトランスポーターの2種類の遺伝子が並んでいることを見いだした。また、このタンデムに存在するトランスポーターは放線菌門に広く存在することが示唆された。このトランスポーターは非天然化合物を輸送できると考えられることから、本研究では、トランスポーターの立体構造、機能解析を中心に、この新規オペロンにコードされる蛋白質の生理機能上の重要性解明を目的として研究を進めている。今年度は、特にX線結晶構造解析により、トランスポーターの構造解析を目指した。昨年度、細胞外の基質認識に重要なsubstrate binding subunit (SBS)の構造解析に成功し、全体構造からSBSはジペプチドトランスポーターファミリーに属することが確認された。そこで、SBSの基質と考えられるヒドラジド化合物との複合体構造解析を目指した。構造取得に成功し、基質結合様式が分解酵素のヒドラジダーゼと同じであることを見出し、オペロンにコードされる蛋白質が共同して機能していることを明らかにできた。一方で、トランスポーターの膜貫通部分の構造解析を目指し、発現系の構築を行った。その結果、in vitroでの翻訳システムを用いることで、結晶化につながることが期待される蛋白質の発現を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、Microbacterium hydrocarbonoxydans由来ABCトランスポーターの機能解析を主としている。初年度より、トランスポーターを構成するサブユニットの発現系の構築、結晶化、構造解析を進めてきている。初年度では、トランスポーターの基質結合サブユニット(SBS)の立体構造を明らかにした。それを受けて、2年目の今年度は、ヒドラジド基質が結合した複合体SBSの立体構造を明らかにすることができた。その基質の結合様式が、以前に明らかにしていたヒドラジド分解酵素(ヒドラジダーゼ)の基質結合様式とほぼ一致していることが明らかとなった。このことは、菌体外の化合物をSBSが認識し、トランスポーターで取り込んだ後、ヒドラジダーゼによる分解を受けることを示していると考えている。さらに、このトランスポーターは人工化合物を輸送することが想定されているが、本来の天然基質は不明のままである。そこで、以前の実験よりヒドラジダーゼの基質となり得る化合物として見出されたパラベンを用いSBSとの複合体構造取得を目指した。その結果、構造が得られ、結合様式は先の人工ヒドラジド基質と同じであることが明らかとなった。パラベンは一部の植物など自然界に存在するという報告もあることから、このトランスポーターの天然基質としてパラベンが想定された。このことは、このトランスポーターオペロンを有する放線菌における、オペロンの生理的意義の解明に近づいたと考えている。 また、SBSの立体構造解析の他に、トランスポーターの膜貫通サブユニットとATPaseサブユニットが融合したサブユニットの構造解析を目指し、発現系の構築を進めた。その結果、in vitro翻訳系において結晶化に用いることが期待できる蛋白質を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、当初の計画に従い、本研究の目的であるABCトランスポーターの機能解析を引き続き進めていく。特にin vitro翻訳系を用いて膜貫通サブユニットとATPaseサブユニットの融合サブユニットの組換体蛋白質の発現ができたことから、結晶化、構造解析を目指すとともに、ATPase活性や、輸送活性を調べ、トランスポーターとしての機能解明を目指す。また、機能解析における遺伝子破壊実験では、当該のMicrobacterium 株の形質転換系の構築が重要であることから、まず適切なプロモーター、マーカー遺伝子の探索、形質転換法の確立を試みる。このトランスポーターオペロンは一部のStreptomyces属細菌にも存在することから、Microbacterium株での進捗が見られない場合には、Streptomyces属細菌を用いた解析も行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
計画的に研究を進めたが、試薬などの価格の変動や、手法の改良などにより、予定よりも使用額に余裕を生じた。加えてコロナウイルス感染防止による学会の中止があった。この金額は、次年度に用いることでより多くの条件検討などに効率的に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)