2019 Fiscal Year Research-status Report
N結合型糖鎖の生合成過程をレポーターとした細胞の健康状態の定量化に関する研究
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18K05427
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
藤谷 直樹 札幌医科大学, 医学部, 助教 (10374191)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 小胞体ストレス / 質量分析法 / N結合型糖鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
N結合型糖鎖の定量的な構造解析は細胞の健康状態、特に小胞体ストレス(ERストレス)をモニターすることが出来ると考えられる。神経変性疾患や炎症性疾患、さらにはガンなど多くの疾患の原因の1つであるERストレスを「その程度のストレスか」のように定量的に表現することを目指す。 前年度に引き続き、総合的にN結合型糖鎖修飾にまつわる糖鎖群(糖タンパク質上のN結合型糖鎖と生合成過程で生じる分解物)の定量的な構造解析のため、HeLa細胞をモデルとして、質量分析法を用いて行った。代表的なERストレス誘導試薬であるツニカマイシンおよびタプシガルギンを添加してERストレスを誘導した。前年度までに行った、ERストレスによる糖鎖構造の経時的な変化に加え、誘導剤の濃度の調整によるストレスの強弱による糖鎖構造変化の定量的な追跡を行った。また、質量分析法におけるより効率的な測定方法の検討を行い、細胞から捕捉した糖鎖を回収する際の条件を改良したところ、定量性の正確さがより強固になった。 タンパク質上のN結合型糖鎖と分解物である遊離糖の統合的定量解析により、以下の事が明らかになり、またERストレスを表現できるツールとなることが示唆された。①機序の異なるERストレスでは糖鎖構造と発現量の変動パターンが異なる事、②ストレスによってERに蓄積される糖タンパク質の量には限界値があること、③糖鎖群の定量解析は、ストレス度が最も高い状態を定義する指標となること。 以上を学術雑誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
N結合型糖鎖と生合成過程で生じる分解物である遊離糖は、糖鎖を選択的に捕捉できるグライコブロッティング法を用いて行った。定量解析はMALDI-TOF MSまたはnanoLC-ESI MSを利用して行った。捕捉した糖鎖はイオン化効率が高い分子をタグとして付加するが、その分子由来のシグナルが妨害ピークとして検出されてしまう例が散見されたため、再度の条件検討により、これを解決し、高S/N比の検出を可能にした。 ERストレスは、モデル細胞であるHeLa細胞に対し2および4µg/mLのツニカマイシン、または2および4µMのタプシガルギンで誘導した。ストレス誘導剤添加後、0、1、2、4、8、12、24、48時間目で細胞を回収し、タンパク質上のN結合型糖鎖と遊離糖を分離後、上記グライコブロッティング法に供し、質量分析による定量的構造解析の結果、現在までに117種類の糖鎖の構造を決定することが出来た。 ツニカマイシンはN結合型糖鎖合成阻害剤のため、糖鎖総量は経時的に減少したが、小胞体のカルシウム濃度をかく乱するタプシガルギンによるストレス誘導では、特徴的な糖鎖の発現パターンが観測された。タプシガルギンの場合、4~8時間で顕著な糖鎖の増加が認められ、ERストレスを特徴的に表していると考えられた。 N結合型糖鎖と遊離糖を統合し、主成分分析と階層クラスター分析により、糖鎖の定量的な構造決定と、その経時的な追跡は、ERストレス状態を明示することを示唆する結果が得られ、ERストレスの動的なマーカーとして提案するため、論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のN結合型糖鎖とその分解遊離糖の定量解析による、ERストレスの動的なマーカーの論文受理後、N結合型糖鎖の前駆体であるドリコール二リン酸結合型糖鎖の構造解析も進める。これについては、研究開始直後から取り組んでいるが、タンパク質上のN結合糖鎖と遊離糖で、期待される結果が得られつつあること、また、非常に微量なため検出できるものの定量性に欠けることから中断していた。それを解決するため、nanoLC-ESI MSによるDIA解析法(data independent analysis)の方法論の確立と解析を行う。 本法の有用性・優位性を見出すため、既存のERストレスマーカーとの比較(ERストレス関連タンパク質の検出)を行う。
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Causes of Carryover |
糖鎖の捕捉方法の改良、測定方法の改善を行い、既存のERストレスマーカーの検出に用いる抗体等を購入しなかったこと、また、質量分析装置使用料が減免されたことにより、余剰金が生じた。 繰越金を、予定していた抗体の購入に充てる予定である。
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