2020 Fiscal Year Research-status Report
無細胞翻訳系を用いた天然ゴム生合成酵素複合体の再構築手法の開発
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18K05428
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
小島 幸治 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (80457382)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 天然ゴム / パラゴムノキ / 無細胞翻訳 / 酵素複合体の再構築 / イソプレノイド / ラテックス / ゴム粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の研究グループは小麦胚芽由来の無細胞翻訳系を用いて天然ゴム合成関連タンパク質(HRT1-REF-HRBP)を合成し、天然ゴム合成の場となるゴム粒子上にそれぞれ再構成させることに成功した。この手法は、これまで成し得なかった再構成された酵素による天然ゴムの試験管内合成を可能にし、天然ゴム合成に必要な酵素複合体の構造モデル(山下ら 2016)の提唱に至った。また、三者の関連因子間の相互作用が①ゴム粒子上における安定性の付与②ゴム合成活性の安定化に寄与する可能性を示唆した。これらの研究結果を踏まえ、本研究の初年度では、遺伝子改変が容易な原核生物(大腸菌)由来の無細胞翻訳系でも天然ゴムの生合成が可能であることを確かめ、原核生物の無細胞翻訳系で天然ゴム合成酵素複合体再構築の条件検討を行い、これまでの真核生物由来の細胞内成分を含む小麦胚芽無細胞翻訳系で得た解析結果が再現できることを確かめることができた。これらの結果から、天然ゴム合成酵素複合体の合成およびゴム粒子上への再構成には、真核生物由来の特別な因子に依存せずに行うことができることがわかった。次年度からは、天然ゴム酵素複合体の単離精製へ向けた解析を始めた。タバコ培養細胞内でそれぞれの因子をコードする遺伝子の発現や酵母ツーハイブリッドアッセイの結果から各因子の相互作用領域の推定が行われ、既にデータがまとまった状態にあった。そこで、無細胞翻訳系を用いた実験を行い、in vivoにおける解析結果の再現性が得られることを確認した。これらの研究成果から、3つの天然ゴム合成関連因子がゴム粒子上で複合体を形成して存在し、各因子の相互作用はゴム合成活性の安定性の付与に重要な役割を与えている可能性を示唆する成果を得ることができた。さらに、ゴム粒子の代替え膜成分を土台として用い複合体を単離する方法を検討し、複合体の単離方法の検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)大腸菌の無細胞翻訳系を用いた天然ゴム合成酵素複合体再構築の条件検討について。初年度から大腸菌で構築した無細胞翻訳系の翻訳効率を含めた条件検討を続けており、天然ゴム合成酵素複合体の再構築とその合成活性に改善が得られるか確かめてきた。確認の過程で、主要酵素cis-prenyltransferaseの役割を担うHRT1遺伝子から調製したcDNAの配列に一部の変異や欠失が認められた。そこで、正しい配列に置き換え以前の配列で構築したHRT1の合成活性を比較したところ、修正したcDNA由来のタンパク質から高いゴム合成活性を検出した。現在、本項目においては結果をまとめ論文投稿の準備を進めているが再実験をする必要が生じている。したがって、翌年度において確認実験を行う予定とした。 (2)天然ゴム酵素複合体の単離精製へ向けた解析について。タグを付加したcPTをゴム粒子代替え膜上で無細胞翻訳系を用いて発現させ、産物を免疫沈澱法により回収し、LC-MS/MSを用いてタンパク質組成を調べた。しかしながら、3因子の共発現と安定した複合体構築、さらにはゴム合成活性の検出に至るまでには、更なる条件検討が必要であることがわかった。HRT1とそのパートナータンパク質としてHRBPとREFが共存していることが明らかになれば、酵素の構築からゴム合成活性の発現に至るまで、それぞれ因子間の相互作用の重要性が明らかになる。一方で、予想に反してそれぞれが酵素複合体として存在していないならば、各因子の相互作用はcPTの新規合成とゴム粒子への組み込みにおいてのみ機能し、酵素が成熟型に移行する際に相互作用が解消されると理解することができる。本項目については、多くの再検討項目があるので翌年度にまで解析を続けることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
・大腸菌の無細胞翻訳系を用いた天然ゴム合成酵素複合体再構築の条件検討について。初年度から大腸菌で構築した無細胞翻訳系の翻訳効率を含めた条件検討を続けており、天然ゴム合成酵素複合体の再構築とその合成活性に改善が得られるか確かめてきた。確認の過程で、主要酵素cis-prenyltransferaseの役割を担うHRT1遺伝子から調製したcDNAの配列に一部の変異や欠失が認められた。そこで、正しい配列に置き換え以前の配列で構築したHRT1の合成活性を比較したところ、修正したcDNA由来のタンパク質から高いゴム合成活性を検出した。過去に構築したコンストラクトから形成されるcPT構造には致命的な欠損がないことが予想されるが、再試験したデータを比較し問題が無いことを確かめる。再試験のデータを反映させた論文の内容を訂正する。昨年度末(令和2年度)に行った再実験およびディスカッションの内容を生かし最終年度は、論文完成にむけた準備を最優先して作業を進めていく。 ・天然ゴム酵素複合体の単離精製へ向けた解析について。3因子の相互作用とゴム合成活性との相関関係の効果を確かめる。相互作用部位の同定結果から、立体構造図を基にしてそれぞれの因子の結合部位や酵素活性の関係性について考察を行う。さらには、ゴム粒子膜上におけるゴム合成酵素複合体の再構築だけでなく、人工膜上に対しても再構築が可能になれば人工ゴム合成の手法の確立につながると考え研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
平成30年度の研究における大腸菌無細胞翻訳系の実験のスタートアップは、東北大学の所属研究室の試薬と器具や備品で実行が可能であった。また、研究が順調に進行し、試行回数が当初の予定よりも少なく進行することができたため、使用額を低く抑えることできた。令和元年度は、大腸菌無細胞翻訳系のさらなる条件検討の試行回数が多くなることが予想され、さらには、遺伝子コンストラクトの作成および精製タンパク質の調製を行う際に新規に購入する消耗品が必要となるので、そこで、平成30年度の差額をこれらの解析に使用した。令和1年度においては、光合成微生物を用いた複合体再構築の検討を計画していたが、方針を変更した。この理由から以前の研究計画で購入する予定であった光合成微生物の生育や組み替え体保管に必要な人工気象機の購入が見送られた。その結果生じた差額を令和2年度及び3年度の予算に充てることにした。また、研究代表者は令和2年度に崇城大学に異動した。令和3年度においては、更なる実験のセットアップや学会・研究会への参加を行うための費用として、前年度に生じた差額の予算を使用しする。その内訳は、PCR酵素などの遺伝子組み換え試薬、イオン交換カラム、一般試薬、一般消耗品(チップ、シャーレなど)を予定している。また、大腸菌翻訳系の比較対照としてコムギ無細胞翻訳系キットを消耗品として購入する。研究論文を完成させる予定である。
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