2019 Fiscal Year Research-status Report
反応中間体の構造解析によるマルチ銅オキシダーゼの酸素還元機構の解明と応用
Project/Area Number |
18K05432
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
片岡 邦重 金沢大学, 物質化学系, 教授 (40252712)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 哲 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70361186)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | マルチ銅オキシダーゼ / 構造解析 / 反応機構 / 指向進化 / 中性子線構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
マルチ銅オキシダーゼ(MCO)は,分子内にタイプⅠ, Ⅱ, Ⅲ銅に分類される3種,計4個の酵素活性に必須な銅イオンを含む金属酵素で,タイプⅠ銅で基質を酸化した電子を用いて,タイプⅡ, Ⅲ銅からなる三核銅部位で酸素を4電子還元し水を生成する反応を触媒する。MCOは,系外に活性酸素種を放出することなく分子状酸素を水にまで4電子還元できるが,その詳細な反応機構は明らかではない。本研究では,MCOの一種である大腸菌の一価銅酸化酵素CueOと糸状菌のビリルビン酸化酵素を対象に,X線結晶構造解析,中性子線構造解析による酸素還元反応中間体の構造解析を目指している。また,進化分子工学的手法を用いて酸素還元中心近傍へ変異を導入することにより,酸素還元反応の直接制御技術を得ることも目的としている。 令和元年度においては,反応中間体の状態で安定に存在するCueO三重変異体(C500S/E506Q/W139F)を作製し,ハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて軽水中で結晶化を行ったところ,これまでになく大きな直方体型結晶を得た。この結晶を使用したX線回折実験の結果,2.8A分解能程度までの反射が得られ,3.18A分解能までの全データセットを収集することができた。空間群はP1であり,格子定数はa=50.174, b=50.291, c=476.45(A)であった。野生型CueOの結晶構造をサーチモデルとして,分子置換法により位相を決定した。また,進化分子工学的手法を用いたCueOの改変においては,1次スクリーニング法の改良により複数の基質に対する活性を同時に検討する事ができるようになった。この結果,反応性が異なる変異体の取得が可能となり,これまでの高活性化変異体とは異なり2,6-dimethoxy phenolに対する反応性が増大した変異体の取得に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では,中性子線構造解析の手法を用いてMCO反応中間体の水素原子座標を決定し,プロトネーションによる酸素還元反応の全容を解明することを目標の一つとしている。令和元年度ではCueOの各種変異体,並びに大腸菌発現型ビリルビン酸化酵素の結晶化に取り組んだ結果,反応中間体が安定に維持されるCueO三重変異体(C500S/E506Q/W139F)を用いて,軽水中で大型・良質な結晶を作製する条件を見出し,X線構造解析にも成功した。中性子線構造解析に使用できるまでの大型結晶の取得条件の検討はまだ十分ではなく,重水中の結晶化条件の検討まで到達していない。しかしながら,タイプⅠ銅配位残基のCys500とプロトンドナーのGlu506の変異を含む三重変異体で新たな結晶化条件が見つかったことは大きな前進と言える。また,大腸菌発現型ビリルビン酸化酵素は溶解度が低いことが明らかになり,引続き結晶化条件検討が必要である。 Error-prone PCR法を用いるランダム変異導入により酸素還元三核銅中心近傍へ変異を導入する研究では,これまでの高活性化変異体とは反応性の異なる新しい変異体の取得に成功した。しかし,変異導入部位の特定と,詳細な速度論解析には至っていない。更なるスクリーニングと平行して,取得した高活性化変異体のDNA配列解析と酵素機能の評価が必要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度では,C500S/E506Q/W139F三重変異型CueOの結晶化条件を参考に,他の変異体の結晶化を試みるとともに,重水中での結晶化条件を検討し中性子線回折に繋げたい。大腸菌発現型ビリルビン酸化酵素においては,溶解度を上げられる溶液組成を検討すると当時に,会合を防止するための分子表面の改変にも取組む予定である。ビリルビン酸化酵素については,基質特異性の改変を目的とした分子表面の変異体を作成中であるので,これらについても結晶化の検討を行いたい。 進化分子工学を用いて三核銅部位近傍へ変異を導入し活性の増大した変異体を作製する研究については,令和2年度も継続してError-prone PCR法によるランダム変異導入ライブラリーの作製とスクリーニングを実施し,目的の変異体の取得を目指す。現在得られている特性の異なる高活性変異型CueOについては,変異部位の特定と反応特性の解析を行い,酸素還元反応への変異残基の寄与について明らかにしたい。ビリルビンオキシダーゼについても同時平行してランダム変異導入を行い,2つの酵素を用いることで,できるだけ早く活性の増大を伴う三核銅部位近傍への変異導入を目指す。 また,現在,嫌気性菌Clostridium属菌の持つマルチ銅オキシダーゼ遺伝子の大腸菌発現系を構築中である。低酸素環境で稼働するマルチ銅オキシダーゼの酸素還元能を解析することで,反応機構解明に関する情報が得られると期待している。この新規マルチ銅オキシダーゼの構造機能解析を実施する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止のため参加予定だった学会が中止になり旅費の未使用額が生じた。令和2年度の物品購入に使用する。
|
Research Products
(8 results)