2018 Fiscal Year Research-status Report
植物ホルモン受容体の過剰発現による植物免疫促進機構の解明とその応用研究
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18K05453
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 英光 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40724191)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ストリゴラクトン / 植物免疫応答 / 受容体 / いもち病 / 植物ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究開始までに申請者らはイネのストリゴラクトン受容体D14の過剰発現体(OsD14ox)が葉身に疑似病斑を形成すること、さらにいもち病への抵抗性が向上していることを見出していた。本研究では、植物病害抵抗性とストリゴラクトンシグナル伝達との関係性を明らかにすることを目的とし、OsD14oxを含むストリゴラクトン関連遺伝子変異体において、いもち病菌接種試験、病害抵抗性関連遺伝子の発現量解析、ROSやファイトアレキシンの測定を行った。 トウモロコシUbqプロモーターの下流でイネD14遺伝子を高発現させるプラスミドを野生型イネ(シオカリ)に導入し、OsD14oxを作出した。OsD14oxは擬似病斑を形成していたことから、続いていもち病抵抗性試験を行ったところ、野生型イネと比較して高い病害抵抗性を示すことが明らかとなった。さらに、d14変異体は野生型イネよりも有意にいもち病菌に対して高感受性を示し、病害抵抗性におけるD14の関与が示唆された。一方、野生株にSLアナログであるGR24を処理すると処理区では抵抗性が上がる傾向があった。 ストリゴラクトンシグナルと病害抵抗性の関係を明らかにすべく、OsD14oxにおいてサリチル酸マーカー遺伝子であるOsPR1a、ジャスモン酸マーカー遺伝子であるOsMYB108の発現量解析を行った。すると、OsD14とOsPR1a、OsMYB108の発現量の間に相関は見られず、OsD14oxにおいて恒常的なサリチル酸シグナルやジャスモン酸シグナルの亢進は起きていないことが示唆された。一方、OsD14oxでは活性酸素種が発生していることや、OsD14oxでは野生型イネと比べファイトアレキシンが増加し、d14では減少していることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では1)OsD14過剰発現がいもち病耐性になる現象の把握、2)SL受容と病害抵抗性誘導の関係、3)D14と相互作用する因子の探索、4)他の植物ホルモンシグナルの影響を4本の柱として設定していた。 本年度は1)に注力し、OsD14oxにおいて恒常的なサリチル酸シグナルやジャスモン酸シグナルの亢進は起きていないことが示唆された。一方、OsD14oxでは活性酸素種が発生していることや、OsD14oxでは野生型イネと比べファイトアレキシンが増加し、d14では減少していることを確認した。2)ではd14変異体は野生型イネよりも有意にいもち病菌に対して高感受性を示し、病害抵抗性におけるD14の関与が示唆された。一方、野生株にSLアナログであるGR24を処理すると処理区では抵抗性が上がる傾向があることを見出した。3)については酵母ツーハイブリッド法などを用いて新たに他の植物ホルモンシグナル伝達因子とD14が相互作用することを見出した。4)についてはまだ成果は出ていないが、ジャスモン酸やABAとのクロストークの可能性についての試験を開始している。 このように、4つの柱全てにおいて、想定通り進捗しており、興味深い結果も得られている。次年度以降の計画も当初の計画を大きく変更することなく進めることができる見通しであり、本研究課題はおおむね順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の進捗を受け、2019年度は、4つの柱についてさらに進展させていく。 1)「現象の把握」については、現在、いもち病以外のイネの特徴的な病原菌に対する耐性を調べているところである。またD14過剰発現に伴う植物体内での遺伝子発現の変動の網羅的な解析も計画中である。2) 「SL受容と病害抵抗性誘導の関係」については、リガンドとの相互作用に必要なアミノ酸残基の変異型D14の過剰発現イネを作成中であり、作出後にこの形質転換イネが病害抵抗性があるかどうかを調べる。また申請者らは既に特異的なSL受容阻害剤を開発済みであり、この化合物がD14過剰発現イネの病害抵抗性を抑制するかどうかを調べる。3)「D14と相互作用する因子の探索」については酵母ツーハイブリッド法で得られた新たな相互作用因子がin vivo、in vitroでも相互作用するかどうかを確かめる。 2019年度からは4)「他の植物ホルモンシグナルの影響」の追及も本格的に行う。SL受容体のみならず、他の植物ホルモンの受容体の過剰発現も病害抵抗性に影響を与えるかを過剰発現イネ・あるいはシロイヌナズナを用いて調べる。具体的には、ジベレリン受容体GID1、エチレン受容体ETR1、ジャスモン酸受容体COI1、ABA受容体PYLsなどを過剰発現させたイネ、あるいはシロイヌナズナを作出し、それぞれの過剰発現の病害抵抗性への影響を調べる。またジャスモン酸メチル、ABAといった植物ホルモン、あるいはそのアナログや、各種アンタゴニスト、生合成阻害剤等をD14過剰発現イネに処理し、その病害抵抗性への影響を調べる。
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Causes of Carryover |
本年度、D14過剰発現イネにおける遺伝子発現変動の網羅的解析を外部受託する予定だったが、条件検討を行ったものの実施しなかった。この実験は次年度にさらに実験規模を拡大して実施する予定である。
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