2018 Fiscal Year Research-status Report
アルギニンのタンパク質合成促進シグナル分子としての機能解析
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18K05501
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
吉澤 史昭 宇都宮大学, 農学部, 教授 (10269243)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アルギニン / ロイシン / タンパク質合成 / mTOR / C2C12細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、骨格筋をターゲット組織と定めてアルギニンのシグナル分子としてのタンパク質合成調節機能を明らかにすることが目的である。 本年度は、「アルギニンの骨格筋タンパク質合成促進作用の確認とその作用機序の明確化」を目的として研究を行なった。マウス由来筋芽細胞(C2C12細胞)を筋管に分化させた後、アミノ酸不含培地で4時間培養して実験に供した。全ての実験において、細胞を回収した後、タンパク質合成活性の指標としてmTORの下流標的である翻訳開始調節因子(S6K1および4E-BP1)のリン酸化状態を、ウェスタンブロット法を用いて解析した。アルギニン、ロイシン、ヒスチジン、アラニン、あるいはリジンを添加して30分間の培養の後に翻訳開始調節因子のリン酸化状態を解析したところ、アルギニンおよびロイシン処理によって翻訳開始調節因子のリン酸化が顕著に増加した。次にアルギニン、またはロイシンの濃度を変えて30分間、あるいは時間を変えて処理し、用量反応性および経時変化を比較評価した。その結果、翻訳開始調節因子のリン酸化は、アルギニンおよびロイシン処理によって濃度依存的に増加した。また、15~30分間の処理でリン酸化がピークに達した。さらに、「ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」を目的として、アルギニン、ロイシン、ロイシン+アルギニン、ロイシン+ヒスチジンで30分間処理して、その作用を比較した結果、ロイシン+アルギニン処理で、ロイシン処理よりも翻訳開始調節因子のリン酸化が亢進した。 以上の結果から、アルギニンがmTORシグナル伝達系を介して骨格筋のタンパク質合成を促進するシグナル分子として作用することが培養細胞系で示された。さらにアルギニンは、ロイシンと相加的、あるいは相乗的な作用を示す可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するために、3年間で3つの項目「1. アルギニンの骨格筋タンパク質合成促進作用の確認とその作用機序の明確化」、「2. ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」、「3. in vivoの骨格筋におけるアルギニンのシグナル分子としての作用の明確化」に従って研究を進める計画である。本年度は上記の項目1を中心に研究を進め、アルギニンがロイシンと同様にタンパク質合成活性の指標である翻訳開始調節因子のリン酸化を促進する作用を有することを示し、さらにアルギニンの作用の用量反応性および経時変化を明らかにした。puromycinを使ったSUnSET法によるタンパク質合成速度の測定だけが実施できていないが、計画していたその他の実験は全て実施したことから、当初の予定の9割は達成されたと考える。また、2年度目に実施する計画であった項目2にも着手し、アルギニンがロイシンと相加的、あるいは相乗的にタンパク質合成を促進する作用を有する可能性が示された。この成果は2年度目の研究を進めていく上での有益な基礎情報となることから、2年度目の研究も計画通りに開始できると考えている。 以上を総合的に考えて、現在のところ研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、目的を達成するために3つの項目「1. アルギニンの骨格筋タンパク質合成促進作用の確認とその作用機序の明確化」、「2. ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」、「3. in vivoの骨格筋におけるアルギニンのシグナル分子としての作用の明確化」に従って研究を進める計画である。初年度は上記の項目1を中心に研究を進めたが、当初計画した実験のうちpuromycinを使ったSUnSET法によるタンパク質合成速度の測定が完了していないため、2年度目は先ずこの測定を行う。そして「2. ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」を2年度目の主目的とする。アルギニンセンサーのCASTOR1は、ロイシンセンサーのひとつと考えられているSestrin2と同様な機構でmTORC1の活性制御を行っているとの報告から考えて、アルギニンはロイシンと細胞内シグナル伝達機構を共有している可能性が高い。初年度の研究で、アルギニンは翻訳開始調節因子のリン酸化に対してロイシンと相加的、あるいは相乗的な作用を有する可能性が示唆されたことから、アルギニンのタンパク質合成促進作用はロイシンの作用とは独立していると考えられる。そこで、ロイシンセンサー(Sestrin2等)やタンパク質合成調節に関わる主要な細胞内シグナル伝達経路(mTOR経路、ERK経路など)の主要因子を、siRNAを用いた遺伝子ノックダウン技術や特異的阻害剤で抑制した状態でアルギニン処理して、翻訳開始調節因子(4E-BP1およびS6K1)のリン酸化状態の変化を指標にアルギニンのシグナル伝達経路を探る。さらにアルギニンの作用のin vivo評価系の構築に着手する。
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