2019 Fiscal Year Research-status Report
アルギニンのタンパク質合成促進シグナル分子としての機能解析
Project/Area Number |
18K05501
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
吉澤 史昭 宇都宮大学, 農学部, 教授 (10269243)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アルギニン / ロイシン / タンパク質合成 / mTOR / ロイシンセンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、骨格筋をターゲット組織と定めてアルギニンのシグナル分子としてのタンパク質合成調節機能を明らかにすることが目的である。 本年度は、「ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」を目的として、ラットを用いたin vivo評価系で、ロイシンおよびアルギニンのタンパク質合成促進刺激に対する応答感度を骨格筋タイプ毎に評価した。 5週齢のWistar系雄性ラットを18時間絶食させた後、蒸留水に懸濁したロイシン(L-Leu)を体重100g当たり135mg、あるいはその 1/2、1/4、1/8量のロイシンを経口投与して1時間後に屠殺した。後肢から長趾伸筋、前脛骨筋、足底筋、腓腹筋、ヒラメ筋を摘出して、ロイシン投与量の変化に伴うタンパク質合成活性の変化を、翻訳開始調節因子(S6K1と4E-BP1)のリン酸化レベルを指標として評価した。また、ロイシンの代りにアルギニン(L-Arg HCl)を投与した同様の実験を行なった。その結果、全ての後肢骨格筋でロイシンの投与量増加に伴い翻訳開始調節因子のリン酸化レベルが増加したが、その用量反応性は遅筋線維を多く含むヒラメ筋とその他の骨格筋で異なっており、この応答性の違いはロイシンセンサー(Lars、Sestrin2)およびロイシントランスポーター(LAT2)の発現量に依存している可能性が示唆された。一方、アルギニンを投与した場合は、何れの骨格筋においても翻訳開始調節因子のリン酸化レベルの増加は観察されなかった。そのため、ロイシンとアルギニンの相互作用の検証は行わなかった。 昨年度の培養筋管細胞(C2C12細胞)を用いた研究で、アルギニンがmTORシグナル伝達系を介してタンパク質合成を促進するシグナル分子として作用することが示されたが、その作用はラットを用いたin vivo評価系では確認できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的を達成するために、3つのマイルストーン「1. アルギニンの骨格筋タンパク質合成促進作用の確認とその作用機序の明確化」、「2. ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」、「3. in vivoの骨格筋におけるアルギニンのシグナル分子としての作用の明確化」を設定して研究を進めている。昨年度は、培養筋管細胞を用いて項目1と2を中心に研究を進め、アルギニンがロイシンと同様にタンパク質合成を促進する作用を有すること、またアルギニンがロイシンと相加的、あるいは相乗的にタンパク質合成を促進する作用を有することを明らかにした。そこで本年度は、ラットを用いたin vivo評価系で上記の項目1と2を中心に研究を進めた。その結果、in vitro 評価系で観察されたロイシンのタンパク質合成促進作用は、in vivo評価系でも確認できたが、アルギニンの作用はin vivo評価系では確認できなかった。 計画した実験は予定通り実施したが、アルギニンのタンパク質合成促進作用がin vivo評価系では確認できていないため、直ぐに項目3を開始することができないことから、最終年度の研究が予定通りに進まない可能性がある。この点を考慮に入れると現在のところ研究はやや遅れていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的を達成するために、3つのマイルストーン「1. アルギニンの骨格筋タンパク質合成促進作用の確認とその作用機序の明確化」、「2. ロイシンのタンパク質合成促進作用との比較および相互作用の明確化」、「3. in vivoの骨格筋におけるアルギニンのシグナル分子としての作用の明確化」を設定して研究を進めている。初年度は培養筋管細胞を用いたin vitro 評価系を用いて項目1と2を、2年度目はラットを用いたin vivo評価系を用いて項目1と2を中心に研究を進めてきた。2年度目終了時点で、in vitro 評価系で確認されたアルギニンの骨格筋タンパク質合成促進作用は、in vivo評価系では確認できていない。アルギニンは肝臓で速やかに分解されるため、投与したアルギニンが骨格筋に十分に供給されないことがアルギニンの作用がin vivo評価系で確認できないことの要因であると考えられる。そこで最終年度は、アルギニンの投与方法を検討して、早急にアルギニンの作用のin vivo評価系を確立して、項目3に着手する。また、並行して細胞内アルギニンセンサーであるCASTOR1の発現を、後肢骨格筋(長趾伸筋、前脛骨筋、足底筋、腓腹筋、ヒラメ筋)で確認して、アルギニンの作用が確認できない原因を探る。さらに、アルギニンが一酸化窒素(NO)の産生を介してタンパク質合成を促進するという報告があるため、アルギニンのNO産生を介したタンパク質合成促進の可能性についても調べる予定である。
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