2018 Fiscal Year Research-status Report
油脂含有食品における力学的ガラス転移特性の解明と食感制御モデルの構築
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18K05516
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川井 清司 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (00454140)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ガラス転移 / テクスチャー / フライ食品 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,油脂が食品の力学的ガラス転移温度に及ぼす影響を昇温レオロジー測定などによって明らかにし,ガラス転移温度に基づくフライ食品の食感制御モデルを構築することである. 今年度(初年度)はモデル食品として揚げ玉(小麦粉と水の混合物を油ちょうした多孔質材料)を用いた.自作した揚げ玉をソックスレー抽出器によって油脂を取り除くことで脱脂試料を調製した.また,脱脂試料を一定量の油脂を溶かした有機溶媒に浸して試料に油脂を吸着させた後,有機溶媒を除去することで,油脂含量の異なる試料を得た.各試料は様々な湿度環境下で水分収着させ,水分含量を調節した.各試料の力学的ガラス転移温度は昇温レオロジー測定によって調べた. 昇温レオロジー測定結果より,ある温度で急激に応力が低下し始める現象が捉えられ,その開始点から力学的ガラス転移温度を決定した.各試料の力学的ガラス転移温度は水分含量の増加と共に,直線的に低下した.これは水の可塑効果によるものである.一定水分含量での比較により,油脂含量が増加するほど力学的ガラス転移温度は低下することを確認した.揚げ玉に対しては水だけでなく油も可塑剤として作用することが分かった.以上の結果を整理し,力学的ガラス転移温度,水分含量,油脂含量の3次元状態図を作成した. 各試料のテクスチャーを破断荷重,破断変位,破断エネルギー,破断ピーク数などによって評価した.その結果,いずれの試料も力学的ガラス転移温度が25℃を示すときの水分含量を境に破断特性が不連続に大きく変化した.以上の結果より,揚げ玉の吸湿に伴う食感変化はガラス-ラバー転移によって特徴付けられることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はほぼ計画通りに研究を進めることができたため,引き続き当初計画にしたがって研究を進める.
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は高分子ならび低分子の添加が揚げ玉の力学的ガラス転移温度に及ぼす影響を調べる.高分子としてコーンスターチおよびマルトデキストリンの利用を検討する.低分子としてトレハロース(非還元性二糖)を利用する.これらの副材料を任意に添加し,今年度と同様の方法にしたがってモデル試料を調製する.各試料の水分収着等温線,力学的ガラス転移温度曲線,テクスチャーなどを明らかにし,得られた結果を比較することで,コーンスターチ,マルトデキストリン,トレハロースの食感改質剤としての効果を考察する. 食感改質剤を加えることで試料は更に複雑な組成になる.一般に多成分系試料ではガラス転移に伴う物理応答がブロード状になり,力学的ガラス転移温度を決定することが難しくなる可能性がある.この場合,各温度での等温応力緩和挙動などから各試料のガラス-ラバー転移挙動について検証する. 初年度の研究を通じて,揚げ玉に対しては水だけでなく油も可塑剤として作用する(力学的ガラス転移温度を顕著に引き下げる)ことが明らかとなった.このことは,フライ過程におけるフライ衣の吸油を妨げることが,力学的ガラス転移温度を引き上げる(吸湿に伴う軟化をより長時間妨げる)ことに結び付けられることを意味する.したがって,食感改質剤の添加が揚げ玉の油脂含量に及ぼす影響を別途調べ,実用的観点から,その効果について検証する. これまでに得られた成果を学術論文として国際誌に発表する.また,国際学会でも成果発表を予定している.
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Causes of Carryover |
次年度の国際学会参加のための費用として工面したものであり、次年度に解消される見込みである。
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Research Products
(4 results)