2020 Fiscal Year Research-status Report
量子ドットの粒子追跡法を用いた食品ゲルの構造変化の計測
Project/Area Number |
18K05519
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
槇 靖幸 九州大学, 理学研究院, 准教授 (50400776)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 量子ドット / ソフトマター / エイジング / 粒子追跡法 |
Outline of Annual Research Achievements |
粒子の分散性向上やゲルを構成する高分子への吸着防止のため、ポリエチレングリコール(PEG)をグラフトしたプローブ微粒子を調製し、粒子追跡法へ利用した。具体的には、アミノ基末端を持つPEGを、カルボジイミドによるアミド結合形成反応を利用して、カルボキシ基を表面に有するポリスチレン微粒子に結合させた。PEG化微粒子では表面のゼータ電位の絶対値が減少したが、分散性は良好であり、表面のPEG鎖が凝集を抑制していると考えられた。 PEG化微粒子をプローブ粒子として用い、透析法によるコラーゲン多管構造ゲル形成のレオロジーを測定した。この多管構造ゲルは、コラーゲンの酸性溶液を中性のリン酸緩衝液で透析することで形成され、直径数十μmの多数の管が配向した構造を持つ。筋肉と同様のマイクロオーダーの異方的な組織を有するため、この構造形成の原理は特徴的な食感をゲルに付与する手法として応用できる可能性がある。ゲル化過程における粒子の平均二乗変位(MSD)の解析により、管構造形成時のコラーゲンと溶媒の相互拡散に起因する非ブラウン運動的な巨視的流れの発生と、それに続くゲル化による流動性の喪失が観察された。ゲル化後は、ゲルの挙動を示す弾性的なMSDに加え、水中と同様の拡散係数を持つ粘性的なMSDが新たに出現した。後者は管構造内部の流体相のレオロジーを反映していると考えらえた。実際、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)観察により、PEG化粒子は濃厚相(ゲル相)に多く局在したが、希薄相(流体相)にもある程度移行することが確認された。希薄相に対応するMSDの出現と弾性的なMSDの出現はほぼ同時に起こることから、多管構造ゲル形成では構造形成の直後にゲル化による構造の固定化が起こることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、微粒子のPEG化条件を検討し、様々な粒子径のポリスチレン微粒子のPEG化を行うことができたので、カルボキシ基を表面に有する量子ドットに対しても同様のグラフト処理を適用可能な状況である。透析法によるコラーゲンゲルを用いた実験で、カルボキシ化微粒子はほぼ全て濃厚相に局在化するのに対し、PEG化微粒子ではある程度の粒子が希薄相にも移行することがわかった。このように、PEGによる粒子の表面修飾の制御は、多相系に対する選択的な粒子局在の制御に有効であることが示された。カルボキシ化微粒子の濃厚相への強い局在は、コラーゲン分子に対してカルボキシ化微粒子が静電的に吸着しやすいことによると考えられる。ゲルの網目サイズより小さい量子ドットを粒子追跡のプローブとする場合には、粒子とゲルの吸着は実験の解釈に与える影響が大きいので、PEG化はこれを防止する有効な手段になる。一方で、比較的大きなPEG化ポリスチレン粒子をプローブとしてコラーゲン溶液のレオロジーを計測した場合、実際の粘度よりも低めの見かけ粘度が得られることも見出した。これは、プローブ粒子表面のPEGのより、粒子近傍でコラーゲンの枯渇が生じている可能性を示唆する。この影響は、グラフトするPEGの鎖長によって制御できると考えられる。以上のように、粒子の表面構造制御の方法と、測定対象に応じて適切な粒子表面を検討するための知見が得られてきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
モデル系として、不均一なゲルについては透析法による多管構造コラーゲンゲル、均一なゲルについてはゼラチンゲル、均一な溶液についてはコラーゲン溶液やゼラチン溶液を用いて、粒子追跡法の実験をさらに進める。量子ドットの凝集や吸着を低減するために、PEG化量子ドットを調製する。粒子の局在や試料への吸着に対するPEGの鎖長等の影響についての知見を集め、測定に適した調製条件を決定する。蛍光顕微鏡下での粒子の変位測定(video microscopy, VM)に基づく粒子追跡法に関しては、高感度の冷却式sCMOSカメラを新たに導入することで、量子ドットの直接的な変位測定とこれによる粒子追跡法測定の実現を目指す。ただし、現在の蛍光顕微鏡の照明は量子ドットの蛍光励起に最適化されていないため、これでも量子ドットの観察が困難であることも想定される。その場合は、数十nmのポリスチレン微粒子を用いて同等の測定を行うことも検討する。同時に、CLSM視野内での蛍光相関分光法(FCS)による評価についても検討する。現在利用可能なCLSMは量子ドットの励起に適したフィルタを装備している。FCSでは個々の粒子の変位の直接測定はできないが、フェムトリットルオーダーの微小な共焦点体積内の粒子の平均的な拡散挙動を評価でき、観察点を走査することで、系の不均一性についての情報も得られる。VMとFCSを相補的に用いたゲルの不均一性の評価法の確立を目指す。
|
Causes of Carryover |
量子ドットの粒子追跡法に用いるための、高シグナル-ノイズ比・高時間分解能の顕微鏡カメラの導入について検討を行っていたが、調査の過程で当初購入を考えていた機種がやや古い型であり、しかも後継機種が出ないことが判明したため、断念した。これにより、機種の選定が遅れてしまったが、その後再度検討を行い、すでに導入機種を決定している。次年度のできるだけ早い時期に導入予定である。
|