2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K05573
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
土屋 亨 三重大学, 地域イノベーション推進機構, 准教授 (30293806)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自家不和合性 / 交配不和合性 / ヒルガオ科 / サツマイモ栽培種 / メキシコアサガオ / S遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
サツマイモ栽培種(Ipomoea batatas)は、その近縁野生種であるメキシコアサガオ(Ipomoea trifida)の自家不和合性に基づくと考えられる交配不和合性を有しており、同一交配不和合群に属する個体間においては、交配しても種子が得られない。この交配不和合性があるがために、自由な組合せによる交配育種を行うことはできず、新品種育成が妨げられている。本研究の代表者は、これまでの研究により、メキシコアサガオの自家不和合性の花粉と柱頭間の自他認識に直接関与する雌雄の自他認識因子遺伝子(S遺伝子)の有力候補である雄側のItAB2と雌側のItSEA、ItSE2遺伝子をそれぞれ同定した。これら遺伝子はS複対立遺伝子型間で多型性に富んでおり、サツマイモ栽培種における相同遺伝子を単離するのは困難であるがそれらを単離し、交配不和合群の判別マーカーを作成することが本研究の目的である。 メキシコアサガオのS遺伝子候補のうち、雄側のItAB2はS対立遺伝子型間の多型性やコードする分子の特性から有力な雄側のS遺伝子候補であることには間違いないと思われるが、雌側のItSE2とItSEAはS対立遺伝子型間で多型性を示すものの非常に類似したタンパク質をコードしている。これらから有力な雌側のS候補遺伝子を選抜するために、これまでにゲノム配列が明らかになっているヒルガオ科植物からS遺伝子座領域(自家和合性種からはS遺伝子座相当領域)を抽出し、当該遺伝子座の存在、構造等を詳細に解析した結果、自家不和合性種にのみ保存されている遺伝子がItSEAのホモログのみであることを見出し、これをメキシコアサガオの有力な雌側のS遺伝子候補とした。 更に、昨年度までに選抜した新規自家和合性メキシコアサガオ系統(Sc)に対し、ItS1-S候補遺伝子を導入したカルスが得られたため、現在、再分化条件の検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
サツマイモ栽培種の交配不和合性の基盤を成すと考えている、メキシコアサガオ(サツマイモ栽培種の近縁野生種)の自家不和合性については、真のS遺伝子の決定が成されていない。これまでの解析により、メキシコアサガオのItAB2とItSEAが雌雄のS遺伝子の最有力候補であることは比較ゲノムにより示されたが、真のS遺伝子を決定するためには、当該遺伝子の形質転換体の作出と交配実験が不可欠である。これまでにS10ホモ型系統のメキシコアサガオにS候補遺伝子を導入した形質転換体を作出したが、着花率や花粉稔性の低下により十分な交配実験が行えず、本研究において新規の自家和合性メキシコアサガオ系統(Scホモ型系統)を作出し形質転換実験を行った。しかしながら、作出したScホモ型系統においてはS遺伝子座以外においては高度にヘテロ性が維持されており、カルス誘導効率、遺伝子導入効率、カルス増殖効率、再分化効率など系統間で大きな差異があることが判り、現在、至適な条件等を検討しつつ再分化個体の獲得を目指している。 また、サツマイモ栽培種のS遺伝子型判別マーカーの作成には、サツマイモ栽培種の各交配不和合群を示すS遺伝子を獲得することが必要不可欠であるが、このコロナ禍において、また、昨年の不良環境により、サツマイモ栽培種の栽培と効率的な開花促進を行うことができなかった。そこで現在、室内環境ではあるが、キダチアサガオ台木にサツマイモ栽培種を接ぎ木しての開花促進を行っており、一部品種系統の生殖器官(開花2週間前の葯、開花前日の柱頭)からのtotal RNAの単離を昨年度末に行うことができた。当初目的では、これらからcDNAライブラリーを構築してスクリーニングを行う予定であったが、現在、次世代シークエンサーを用いたRNA-seqによるサツマイモ栽培種のS候補遺伝子の探索を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
メキシコアサガオのS遺伝子の決定のために行った昨年度までの形質転換実験により、メキシコアサガオのS候補遺伝子を導入したScホモ型系統のメキシコアサガオのカルスは獲得できたが、不定胚形成を経た再分化個体の獲得には至っていない。現在、効率的な再分化を目指しているが、その条件検討は困難を伴うことが予想される。そこで、当該S候補遺伝子をメキシコアサガオ以外の自家和合性のヒルガオ科植物(アメリカアサガオ、アサガオ、ホシアサガオ、イモネノホシアサガオなど)に導入して真のS遺伝子の決定を試みている。 また、サツマイモ栽培種のS遺伝子型判別マーカーの作成に関しては、現在進めている次世代シークエンサーを用いたRNA-seqの結果をみて今後の対応を考える予定にしている。メキシコアサガオにおいては、S複対立遺伝子のうち雄側のS候補遺伝子であるItAB2は優性の遺伝子のみが葯内で転写されるため、おそらくサツマイモ栽培種においてもIbAB2の発現制御は転写段階で行われると想定しており、現在進めているRNA-seqにより、個体内の最優性のIbAB2の配列は獲得できると想定している。しかしながら、メキシコアサガオにおいてItSEAの発現制御は転写レベルではなく、それ以降で行われていることが明らかになっており(優劣性に関係なく個体が有する全てのItSEAの転写が行われている)、IbSEAの解析には少なくともゲノム配列レベルの解析が必要不可欠になることが考えられる。そこで研究遂行を加速するために、想定していたゲノムライブラリーの構築とスクリーニング・染色体歩行によるIbSEA遺伝子の単離(S遺伝子座単離)に換えて、ロングリードの次世代シークエンサーの利用を検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延とその対策に伴い、学生の登校自粛や教員の研究活動の縮小が求められるなど研究活動規模の縮小を余儀なくされ、当初予定していた形質転換実験、サツマイモ栽培種の栽培ならびに開花促進、花器官のサンプリング等に大きく遅延が生じた。 この遅延を打開すべく、当初計画に記載したサツマイモ栽培種のS遺伝子の単離と同定の手法をクラシカルなライブラリー構築とスクリーニングから次世代シークエンサーによる配列解析に変更すべきと考え、その予算に充てるため次年度使用額が発生した。今後は、この変更に従い次世代シークエンサーを利用したRNA-Seqとロングリードのゲノム配列により、サツマイモ栽培種のS遺伝子(S候補遺伝子)の配列を同定し、サツマイモ栽培種の交配不和合群の判別マーカーの作出を試みる。
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