2019 Fiscal Year Research-status Report
イネの地上部・地下部を区別した環境受容の分子メカニズム解明と育種への利用
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18K05578
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
横井 修司 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80346311)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イネ / 環境受容 / 温度 / 出穂(開花) / 分子メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は外界からのシグナルによって季節を判断して花を咲かせる準備をする。イネでは短日条件で地上部の葉で花成ホルモンが作られ, 地下部の茎頂で作用して幼穂形成が促進される。先行研究ではイネにおいて栄養成長期の水温が次世代の出穂時期に影響を与えることを見いだしており, 前世の水温が低かった場合次世代では出穂が早くなった。しかし, その分子メカニズムは未解明なままである。本研究では環境ストレスが次世代の種子に記憶されるメカニズムを明らかにするため, 環境条件を変化させて世代を促進したイネを材料に, 表現型の分析と分子生物学的な解析を行う。 本年度は,以下の1世代目の生育と調査を行った。2品種(日本晴,ゆきひかり)とも水温が高い方が葉齢の進み方と出穂日がはやく, 高水温がイネの葉の展開スピード, 出穂までにかかった日数を促進することが分かった。早生品種のゆきひかりの方が晩生品種の日本晴よりも出穂日が早くなることが再現できた。出穂までにかかった日数の比率は2品種とも高水温区と比較して低水温区で1.15倍増加し, 比が等しくなった。人工気象器で気温条件を変えてイネ‘日本晴’, ‘ゆきひかり’, ‘キタアケ’の3品種を栽培した実験では出穂までにかかった日数の比は等しく表せなかった。イネの地上部を一定にして地下部の温度を変えることで, 地上部からの開花促進のシグナルは一定となったため比率が一定になったと考えられる。出穂時の葉の枚数は低水温で約1枚少なくなった。これは低水温区では葉齢に対して幼穂形成のタイミングを早くしようとしたためであると考えられる。この現象は生長スピードが他の個体より遅い個体で見られ, 葉の枚数を減らして出穂を調節する可能性がある。葉の長さは低水温区と比較して高水温区で5~10cm長くなった。水温が葉の長さに影響し, 葉の細胞の分裂と関与する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,温度のストレスに注目して研究を行った。表現型の調査は,順調に進んでおり,地下部の低温と高温のそれぞれの温度のイネ相転移への影響は明らかになりつつある。 地上部からのシグナルの発現パターンを見るための地上部の葉の定期的なサンプリングと茎頂の定期的なサンプリングを順次行い,表現型の調査を行うまで-80℃で保存している。しかし,新型コロナの発生と感染拡大防止のための措置による大学の閉鎖に伴い,思うような実験が進んでいない。 表現型の調査では,興味深いことに,出穂時の葉の枚数が低水温で約1枚少なくなるという現象が一定の確率で,しかも地下部への低温処理の期間に依存して生じている可能性を見いだした。これは低水温区では葉齢に対して幼穂形成のタイミングを早くしようとしたためであると考えられる。この現象は生長スピードが他の個体より遅い個体で見られ, 葉の枚数を減らして出穂を調節する可能性がある。 葉の長さは低水温区と比較して高水温区で5~10cm長くなった。水温が葉の長さに影響し, 葉の細胞の分裂と関与する可能性がある。この現象が品種によるものであるのか,温度によるものであるのか,記憶として次世代に残るものなのかを検証していく事件を行った。出穂時に一枚葉数が減少する個体では,葉の長さが長くなることが見いだされ,出穂時に葉数が減少することを葉を長くすることで保証する,あるいは一枚の葉を出現させるための期間が長いことから生じる現象なのではないかと考察した。 以上のように,表現型の調査は順調に進んでいるが,遺伝子解析をする段階になって新型コロナの発生に伴う研究の停止が生じ,上記区分のように少々遅れているとの評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)軽微なストレスによる相転移の表現型の解析:イネ栽培品種ゆきひかりを用いて日長条件(長日・短日)を一定にし、ストレス条件(低温・高温など)を組み合わせた様々な処理区を設け、幼若栄養生長相から成熟栄養生長相、その後の生殖生長相へ の各相転移形態変化を上記の1)と同様に調査し、日長とストレス処理の組み合わせによって相転移の早晩がどのように調節されるかを明らかにする。2)相転移関連遺伝子群の遺伝子発現解析(イネ品種ゆきひかり):表現型調査と同時にサンプリングを行い、既知の花成関連遺伝子、ストレス関連遺伝子の発現量の調査を行う。このときの処理は表現型確認用の個体の表現型をモニタリングしながら、同処理区内にサンプリング用の個体を用意してサンプリングを行う。発達ステ ージ(発芽直後から出穂後まで)・器官毎にHd3aの発現解析を行い、表現型と発現量との相関を考察する。 4)茎頂での花器官形成下流遺伝子群の発現解析(イネ品種ゆきひかり):葉身での温度変化と茎頂での複合体形成が下流の花器官形成に関わる因子を誘導しているか否かを調査し、表現型の妥当性を評価する。これにより、地上部と地下部でのシグナルのフローと最終的な花成へのつながりを確定させることができる。 新型コロナ対策として,大学への勤務が思うように進まず,栽培や調査に影響が出ることは必須である故,計画は至極暫定的であることを申し添える。
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Causes of Carryover |
本年度は,表現型のデータを収集することに集中したため,分子生物学に用いる試薬等の使用が少なかった。来年度は分子生物学的な実験が増加することから,使用する試薬等の購入が増えることが予想される。また,成果報告等にかかる経費も増加することが予想される。しかし,新型コロナに対する施策の様子によっては実施計画が計画通りに進まない事も予想される。
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