2018 Fiscal Year Research-status Report
塩ストレス下におけるオルガネラの細胞内三次元配置変化と耐塩性との関連性の解明
Project/Area Number |
18K05603
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
山根 浩二 近畿大学, 農学部, 准教授 (50580859)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イネ / 電子顕微鏡 / 3次元構造 / 葉緑体 / ミトコンドリア / ペルオキシソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で使用している画像解析ソフトImageProにおいて、植物細胞に含まれるオルガネラ接触面積の定量は行われていなかった。そのため、葉緑体・ミトコンドリア・ペルオキシソームの接触面を抽出するための最適な条件検討を行い、これらのオルガネラ間の接触面積の定量が可能となった。 続いて、圃場条件で3ヶ月生育させたイネの最上位展開葉と下位葉を用いて電顕固定を行い、ウルトラミクロトームを用いて500枚程度の連続画像を取得した。葉肉細胞を3つずつ撮影し、葉肉細胞全体と葉緑体・ミトコンドリア・ペルオキシソームのトレース画像を作製した。そのトレース画像を用いてオルガネラ間の接触を定量した。その結果、1つの葉緑体の表面積に対して、ミトコンドリアとの接触面は約10%であった。一方、ペルオキシソームとの接触面は、葉緑体の表面積の約3%であった。1つのミトコンドリアの表面積に対して、葉緑体との接触面は約50%であった、一方、ペルオキシソームとの接触面は、ミトコンドリアの表面積の約10%であった。1つのペルオキシソームの表面積に対して、葉緑体との接触面は約40%であった。一方、ミトコンドリアとの接触面は、ペルオキシソームの表面積の約40%であった。最上位展開葉と下位葉を比較しても、接触面積に有意な差はなかった。 続いて、各オルガネラの表面積と接触面積との関係を調べた。葉緑体の表面積とミトコンドリアとの接触面積には、有意な正の相関があったが、ペルオキシソームとの接触面積には有意な相関はなかった。ミトコンドリアは、表面積が大きくなるほど葉緑体とペルオキシソームとの接触面積が大きくなり、有意な正の相関があった。しかし、ペルオキシソームの表面積と葉緑体やミトコンドリアとの接触面積には、有意な相関はなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Image-Proの画像ソフトを用いた接触面積の定量解析は、これまで植物分野では行われていなかった。そのため、葉肉細胞内のオルガネラトレース画像を用いた解析に対する最適な条件を見つける必要があったため、方法論の確立に時間を要することが予想されたが、予想より早く最適条件の検討に成功した。 連続画像の取得に関して、ウルトラミクロトームによる連続切片ではz軸の間隔が100 nmとなり、接触面の定量において解像度が低いことが予想された。そのため、FIB-SEMの使用も検討したが、トレースを行って画像解析を行ったところ、100 nm間隔の切片でも十分な解像度を確保できることが明らかとなった。ウルトラミクロトームとTEMは、FIB-SEMと比較して機器の汎用性が高いため、次年度以降の研究を効率的に進めることができるようになった。 研究開始時点におけるImage-Proを用いた画像解析手法の確立とz軸方向の解像度の問題が解決し、対照環境で生育させたイネの葉肉細胞における葉緑体・ミトコンドリア・ペルオキシソームの接触面積の定量を行うことができた。来年度以降の塩ストレス実験に向けた研究基盤を整えることができたため、研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 塩ストレス下におけるオルガネラ接触面積の定量 イネの耐塩性品種であるPokkalliと塩感受性品種の日本晴を用い、3週齢の植物に100 mMのNaClを含む培地で4日間栽培することで塩ストレス処理を行う (対照区はNaClを含まない培地で栽培する)。対照区と塩処理区それぞれの最上位最大展開葉を用い、電顕固定を行う。固定後の切片作製と観察は、ウルトラミクロトームとTEMによる連続切片法を用いて、葉肉細胞全体の連続画像を取得する。得られた画像から葉緑体、ミトコンドリア、ペルオキシソームを抽出し、三次元像再構築ソフトを用いてそれぞれのオルガネラについて膜接触面積を定量評価する。塩処理による膜接触面積の増減程度を耐塩性品種と塩感受性品種で比較し、オルガネラの膜接触面積の増減は品種間で差があるのか、さらに耐塩性と関係するのかを明らかにする。
(2) PEGストレス下におけるオルガネラの接触面積の定量 塩ストレスは、過剰な塩に起因するイオンストレスと浸透圧ストレスの複合ストレスである。そのため、オルガネラ間の膜接触面積の変化に対するストレス要因を特定する必要がある。3週齢のイネ品種日本晴を用い、100 mMのNaClストレスと同等の浸透圧ストレス処理をポリエチレングリコール (PEG)溶液を用いて行う。対照区とPEG処理区それぞれの最上位展開葉を用いて電顕固定を行う。固定後、ウルトラミクロトームとTEMによる連続切片法により、葉肉細胞全体の連続画像を取得する。得られた画像から葉緑体、ミトコンドリア、ペルオキシソームを抽出して、三次元像再構築ソフトを用いてそれぞれのオルガネラの膜接触面積を定量評価する。このデータと塩ストレス実験で得られたデータをつき合わせ、膜接触面積の変化におけるストレス要因を特定する。
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Causes of Carryover |
平成30年度の実験では、TEMで得られた画像のz軸に対する解像度の検討と画像解析ソフトによる解析手法の確立を中心に行い、新たな設備備品費に支出を行う必要がなかった。そのため、次年度使用額が生じた。 平成31年度は、塩ストレスとPEGストレス実験を行う予定にしており、前年度よりも多くの連続切片をウルトラミクロトームによって得る必要がある。その際、ダイヤモンドナイフを使用しなければならないが、現在所有しているダイヤモンドナイフは、約8千枚の超薄切片を作製して刃が消耗しているため、刃を研磨する必要がある。さらに、実験を効率的に進めるため、新たなダイヤモンドナイフの購入も必要になる。次年度に繰り越した研究費を利用して、ダイヤモンドナイフの研磨と新規購入を行う予定である。
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