2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of disease-resistant rice plants using epigenetic mutations and verification of their practical use
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18K05644
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
小林 一成 三重大学, 地域イノベーション推進機構, 教授 (90205451)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 病害抵抗性 / イネ / エピジェネティクス / DNAメチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度実施したRNA-seq解析および次世代シーケンサーによる全ゲノムDNAメチル化解析について、系統数を増やして精度を高めるとともに、系統間差異について検討し、本法で作出した抵抗性獲得イネのいもち病抵抗性がエピジェネティック変異に起因することの確実かつ最終的な証明を行うことを目的とした。さらに、本法により1回のみ処理した抵抗性獲得系統において、潜在的に存在する全ての標的遺伝子にメチル化変化を引き起こしているか否かを明らかにするとともに、メチル化変化により発現変化した遺伝子のうちイネの病害抵抗性発現のマスターレギュレーターとして機能する可能性がある遺伝子を特定することとした。今年度の研究から得られた主要な成果は以下の通りである。 1)本法により作出された抵抗性獲得イネ系統にプロベナゾールを処理し、抵抗性がさらに上昇するか否かを検討した結果、繰り返し処理しても抵抗性は増強しないことから、1回の処理で必要十分な変異が方向づけられていると考えられた。 2)RNA-seq解析および全ゲノムメチル化解析を対象植物及び抵抗性獲得植物の4系統ずつで実施し、系統間に差異があるか否かを調べた結果、系統間には差異があるが、日本晴や対象系統には見られず、全ての抵抗性獲得系統に共通して見られるDNAメチル化変化が確認された。この結果から、抵抗性獲得イネのいもち病抵抗性がエピジェネティック変異に起因することに関して、確実かつ最終的な証拠が得られたと言える。 3)RNA-seqおよび全ゲノムメチル化解析の結果を比較検討した結果、プロモーター領域のメチル化変化と遺伝子の発現変化が相関する4つの遺伝子が特定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、(1)我々が開発したエピジェネティック変異を方向づける方法で作出した抵抗性獲得イネのいもち病抵抗性はエピジェネティック変異に起因するか、(2)エピジェネティックに変異した遺伝子のうち病害抵抗性プライミングに決定的な役割を果たす遺伝子は何か、および(3)作出したいもち病抵抗性イネは圃場において実用的な抵抗性を示すか、の3点を明らかにすることを目的としている。具体的には、研究期間中に、1)再生個体の全遺伝子発現解析およびエピジェネティック変異と相関する発現変化の特定、2)耐病性獲得イネ個体における全ゲノムメチル化状態とクロマチン修飾の解析、および3)本法の農業現場における実用性の検証を目指している。 今年度までの研究から、計画していた1)および2)に関しては、目的とするデータをほぼ全て得ることができた。特に、RNA-seq解析および全ゲノムメチル化解析を対象植物及び抵抗性獲得植物の4系統ずつで実施し、系統間の差異があるか否かを調べた結果から、抵抗性獲得イネのいもち病抵抗性がエピジェネティック変異に起因することについて、確実かつ最終的な証拠が得られたことは極めて大きな進展であると言える。 以上のことから、本研究は計画通り進捗しており、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究から、RNA-seq解析と次世代シーケンサーによる全ゲノムDNAメチル化解析を総合的に検討した結果、抵抗性獲得イネのいもち病抵抗性がエピジェネティック変異に起因することについて、確実かつ最終的な証拠が得られた。次年度は本研究のまとめの年度にあたることから、エピジェネティック変異の方向付けに関するより詳細なメカニズムの解明とともに、作出した抵抗性植物を社会実装する可能性を検討することとする。特に、社会実装の可能性を検討するための実験として、プロベナゾール以外の抵抗性誘導剤によるエピジェネティック変異の方向付けの検討及びイネ以外の植物における本法の有効性の検証を行うこととする。具体的には、以下の実験を行うこととする。 1)RNA-seqおよび全ゲノムメチル化解析の結果、プロモーター領域のメチル化変化と発現変化に相関が見られた遺伝子を対象として、イネの脱分化・細分化過程のいずれの段階でメチル化変化が獲得されるかを検討する。 2)次世代シーケンサーを用いたChIP-seq解析により、H3K9me3、H3K9ac及びH3K27me3等に関して、いもち病抵抗性獲得イネ個体に特有のクロマチン修飾変化が認められるか否かを明らかにし、RNA-seqの結果との相関を検討する。 3)防御応答誘導に関与する植物ホルモンであるサリチル酸及びサリチル酸経路を活性化するとされているプロベナゾール以外の抵抗性誘導剤を用いて、プロベナゾールと同様なエピジェネティック変異の方向付けによる抵抗性獲得イネの作出は可能であるか否かを検討する。 4)双子葉植物であるトマト等にも本法が有効であるか否かを検討し、本法の実施例を増やすことを通して社会実装の可能性を明らかにするとともに、出願した特許を核とした知財ポートフォリオの形成に役立てる。
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Causes of Carryover |
(理由) 全体額のうち、ごく少額が端数として生じたものである。 (使用計画) 試薬等に使用する予定である。
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