2019 Fiscal Year Research-status Report
酸化マグネシウムによって萎ちょう病感受性トマトに誘導される萎ちょう病抵抗性
Project/Area Number |
18K05647
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
伊藤 真一 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (30243629)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トマト萎ちょう病 / 酸化マグネシウム / 誘導抵抗性 / Fusarium oxysporum |
Outline of Annual Research Achievements |
トマト萎ちょう病感受性品種のトマト苗に酸化マグネシウム(MgO)懸濁液を灌注処理すると、処理後1週間でJAシグナル伝達経路依存性の強力な萎ちょう病抵抗性が誘導される。本研究は、MgOが誘導するトマト萎ちょう病抵抗性のメカニズムを解明し、トマトが潜在的に持っている萎ちょう病抵抗性に関する知見を得ることを目的とする。2019年度の研究成果は以下のとおりである。1)MgO処理1時間後のトマト根のRNAシーケンシングを行い、MgO処理によって発現が変動する遺伝子群(DEG)を抽出した。DEGのGO解析の結果、発現が上昇したDEGでは、テルペノイド生合成および代謝、イソプレノイド生合成、モノオキシナーゼ活性などが小さいP値を示した。発現が減少したDEGでは、膜、イオン輸送など細胞膜に関連したカテゴリーが小さいP値を示した。2)MgO処理後1週間のトマト根にトマト萎ちょう病菌(FOL)を接種し、1時間後の発現遺伝子のRNAシーケンシングを行ってDEGを抽出した。DEGのGO解析を行った結果、発現が上昇したDEGでは、ストレス応答、脂質異化プロセスなどが小さいP値を示した。また、発現が減少したDEGでは、膜、イオン輸送など細胞膜に関連したカテゴリーが小さいP値を示した。3)DEGのKEGG解析を行った結果、MgO処理したトマト根では、フェニルプロパノイド生合成および植物・病原体相互作用パスウェイ遺伝子の発現が上昇していたが、これらのパスウェイではFOL接種によってさらに多くの遺伝子が速やかに発現した。また、FOLを接種した時にのみ強く発現する遺伝子が含まれていた。これらのことから、MgO処理したトマト根ではFOLに対する防御機構がプライミング状態になっていたことが示唆された。4)MgOが誘導するトマト萎ちょう病抵抗性は、生育期間(FOL接種後133日間)を通じて保持されることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)MgOが誘導するトマト萎ちょう病抵抗性に、フェニルプロパノイド生合成および植物・病原体相互作用パスウェイ遺伝子の速やかな発現が関与し、これらの中にFOLの接種で強く発現する防御関連遺伝子が複数含まれていたことから、今後の実験の進め方がより明確になった。2)トマト苗にMgO懸濁液を1回灌注するだけで萎ちょう病抵抗性が生育期間を通じて保持されることがわかり、実用技術につながる可能性が見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)MgO処理トマト根にFOLを接種した際に速やかに発現が上昇する遺伝子と萎ちょう病抵抗性との関係をqRT-PCRによって確認するとともに、これらの遺伝子の中から抵抗性誘導時に迅速に発現する遺伝子(抵抗性マーカー遺伝子)を選抜する。2)抵抗性マーカー遺伝子の発現制御にJAシグナル伝達経路が関与しているか明らかにする。3)RNAシーケンシングで得られたリードのうちFOLのゲノムにマッピングされたリードを用いてコンティグを作製し、FOLの発現遺伝子を抽出するとともに、MgO処理したトマト根組織内のFOLの動態を顕微鏡観察し、FOLが病原性を発揮できない原因を探る。
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Causes of Carryover |
・理由:予定していた旅費の使用がなかったこと、およびその他(施設使用料)が見込みよりも少ない金額だったため。 ・使用計画:物品費として使用する。
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