2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K05649
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
西脇 寿 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (30508784)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Bacillus subtilis / 殺虫活性 / 枯草菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに肉食性昆虫の消化管内から農業害虫であるハスモンヨトウ幼虫に経口投与で殺虫効果を発揮する数種の細菌菌株の単離に成功している.その殺虫性菌株のひとつがひとに対する安全性の高いことで知られている枯草菌であることを明らかにしてきた.この菌株ならびにこの菌が生産する殺虫成分は安全な生物農薬として開発されることが期待できるものの,殺虫成分が何であるのかは定かではない.本研究ではこの殺虫性枯草菌が生産する殺虫成分を精製し,その構造とコードする遺伝子配列を解明し,組換え体タンパク質を作成するとともに,殺虫スペクトルに関する知見を得ることを目的としている. 殺虫効果を示す枯草菌A1-3株を培養して得られた培養上清と菌体に殺虫活性があることを確認した後,それぞれを各種カラムクロマトグラフィーに供して分画し,殺虫活性を評価した.衛生害虫であるアカイエカ幼虫とイエバエ成虫に対する殺虫活性を測定したところ,ゲルろ過カラムクロマトグラフィーで分子量が異なる画分に殺虫効果が認められることを見出し,本菌株が殺虫成分を複数生産していることを明らかにした.なお,標準菌株には活性が認められなかった. SDS-PAGEにより分析することで殺虫活性を示した画分に含まれている殺虫成分を特定し,そのひとつは機器分析などによりペプチド性の物質であることを突き止めることができた.既知の抗菌活性物質の可能性が考えられたが,比較検討した結果,その既知物質とは異なることが強く示唆された.また,この殺虫成分のラット赤血球に対する溶血活性を評価したところ,活性は認められず,哺乳動物に対して安全性の高い成分であることが明かとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度実施したBacillus subtilisの培養液から精製する過程で,イエバエ成虫とアカイエカ幼虫に殺虫症状を示す成分はそれぞれ別のものであり,殺虫性枯草菌が複数の殺虫成分を生産していることを明らかにすることができた.分子量の異なる殺虫成分が複数存在していることが明かになったが,当初の計画通りそれぞれの殺虫成分の内部アミノ酸配列を明らかにすることができた.さらに,アカイエカ幼虫に対して殺虫効果を示すタンパク質に関してはアミノ酸配列をもとにして,コードする遺伝子を明らかにすることもでき,殺虫成分の過剰発現実験を試みている.一方,イエバエに殺虫効果を示すものに関しても,部分構造に関する知見を得ることができている. また,イエバエに即効性の殺虫効果を引き起こす成分の作用機構に関する知見を得るために,細胞毒性を評価した結果,昆虫細胞Sf9細胞やイエバエ成虫から摘出した中枢神経系由来の神経細胞には毒性が認められず,即効的な効果は細胞毒性によるものではないことが明らかとなった.即効的な致死症状を引き起こす要因のひとつでもあるcell lysis活性を除外することができたことは大きな成果と考える. 殺虫スペクトルの拡大を狙ってアザミウマに対する殺虫試験も試みたが,効果が認められなかった.一方で,イエバエ成虫に殺虫効果を示す成分は注射投与でハスモンヨトウ幼虫に効果を発揮することを新たに見出した. 以上のことから,本研究は当初の計画どおりおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究成果から,本菌株が複数の殺虫成分を生産することを明らかにすることができた.また,殺虫成分である可能性の高いタンパク質性の物質を特定し,そのうちの一つであるアカイエカに殺虫効果を示したタンパク質に関してはコードする遺伝子の塩基配列を明らかにすることもできている.標準菌株には殺虫効果は認められていないことから,殺虫成分をコードする遺伝子が標準菌株にも認められるのか解析をすすめる.その結果によりこの殺虫成分の生産がどのように制御されているのか知見を得ることを試みる.また,これまでに塩基配列は特定できているものの,発現までには至っておらず,今後過剰発現系により組換体タンパク質を調製し,本当に殺虫成分であるか確証を得る必要がある.この組換え体タンパク質を調製した後は,部位特異的に変異を導入したものを複数調製し,殺虫効果を発揮するために必要な部分構造を明らかにすることを目指す.一方,イエバエに殺虫効果を示す物質に関しても早急に構造ならびにコードする遺伝子の塩基配列を特定することを目指す. イエバエに即効的な殺虫効果を示す成分の作用機構に関しては,細胞毒性の可能性が除外されたので,次に呼吸阻害の可能性を考え,電子伝達阻害活性を評価することを試みる.電気生理活性に関しても時機を見て検討していきたい. また,殺虫スペクトルを明らかにするために,他の害虫に対する殺虫活性を評価するとともに,益虫に対する効果を評価していく.
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Causes of Carryover |
殺虫スペクトルを明らかにする目的で,数種の昆虫の購入を予定していたが,購入のタイミングがあわず次年度に持ち越すことにした.この助成金は昆虫購入費および昆虫飼育費にあてる予定である.
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Research Products
(1 results)