2018 Fiscal Year Research-status Report
イネいもち病抵抗性NLRタンパク質による病原菌エフェクター認識の分子機構の解明
Project/Area Number |
18K05657
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
齋藤 宏昌 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (20414336)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | Magnaporthe oryzae / タンパク質-タンパク質相互作用 / エフェクター / NLR / HMA / integrated domain / 植物免疫 / 宿主-病原体相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
いもち病を防除するアプローチとして、NLRs(Nucleotide-binding Leucine rich repeat Receptors)として知られる細胞内免疫受容体をコードするイネ抵抗性遺伝子を用いた抵抗性品種の利用が実施されている。植物のNLRsに組み込まれている特殊な領域(Integrated Domain: ID)は、病原体から分泌されたエフェクタータンパク質を直接認識し、免疫反応を誘導する。イネの免疫受容体ペアであるPik-1/Pik-2とRGA5/RGA4は、いずれもIDとしてHeavy Metal Associated(HMA)領域を持ち、このHMA領域でイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)エフェクターAVR-PikとAVR-Piaをそれぞれ認識する。AVR-PikとAVR-PiaはMAX(Magnaporthe Avrs and ToxB-like)エフェクターファミリーに属し、主要な立体構造は保存されている。どのようにしてIDが構造的に類似した異なるエフェクターを特異的に認識するのかを解明することにより、植物免疫受容体とエフェクターの共進化と機能の理解が導かれるであろう。本研究では、イネのNLRペアPikp-1/Pikp-2がミスマッチのエフェクターであるAVR-Piaに対してin plantaで免疫反応を誘導し、Pikp-HMA領域はin vitroでAVR-Piaと結合することを明らかにした。AVR-Piaと結合したPikp-HMAの結晶構造は、AVR-Pikエフェクターとの結合と比較して異なる結合接点を示し、この結果はID/エフェクター相互作用の適応性を示唆する。本研究では、一つのNLRがIDを介してどのように複数の病原体エフェクターを認識するのかを見出し、多様なエフェクターを認識できる免疫受容体の人工設計の可能性を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①「Nicotiana benthamianaにおけるPikp/AVR-Piaの共発現は弱い細胞死反応を引き起こす」 モデル植物であるN. benthamianaの葉において、Pikp-1+Pikp-2+(1)AVR-PikD、(2)AVR-Pia、およびPikm-1+Pikm-2+(3)AVR-PikD、(4)AVR-Piaの組み合わせで一過的に共発現させ、UV光照射下の自家蛍光として細胞死を定量化した結果、(1)と(3)で強い過敏感反応(HR)、(2)で弱いHRが検出され、(4)ではHRが認められなかった。 ②「PikpのHMA領域はin vitroでAVR-Piaと結合する」 初めにPik-HMA領域とAVR-Piaが複合体を形成するかどうかを定性的に確認するためにゲル濾過クロマトグラフィーを活用し、次に結合親和性を測定するために表面プラズモン共鳴を用いた。その結果、Pikm-HMAとAVR-Piaの間では結合が認められず、Pikp-HMAはAVR-Piaと結合し、in vitroでの相互作用がin plantaでの反応と相関することが確認された。 ③「Pikp-HMAはAVR-PikDとの結合とは異なる接点でAVR-Piaと結合する」 Pikp-HMAとAVR-Piaの間で形成された結合接点を視覚化し、AVR-Pikとの結合接点と比較するために、これらのタンパク質間の複合体を精製し、X線結晶構造解析により1.9 Aの解像度で構造を決定した。その結果、驚いたことに、Pikp-HMA/AVR-Pia複合体とPikp-HMA/AVR-Pik複合体において主要な折りたたみ構造は同一であったが、Pikp-HMAとAVR-Piaの結合接点は、AVR-Pikエフェクターとの結合接点と完全に異なっていた。以上の結果を取りまとめてbioRxivに発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
ペアで機能するNLR免疫受容体は、通常負の制御を通して働くと考えられている。すなわち、片方のNLRはもう一方のNLRの活性を抑制しており、この抑制は病原体エフェクターの探知によって解放され、シグナル伝達が誘導される。しかしながら、これが全てのNLRペアの機能による包括的な機構であるかどうかは分かっていない。そこで今後の研究では、Pikp-1/Pikp-2とAVR-PikDの関係において、NLRsとそのエフェクターの両方の協同作用によって細胞死が誘導されることを証明する。申請者らは、N. benthamiana葉においてPikp-1、Pikp-2、AVR-PikDエフェクターを単独でまたは組み合わせで発現させたところ、3者を共発現させた場合でのみHRが誘導されることを明らかにし、イネで見られる反応をN. benthamianaで再現できることを示した。そこで、共免疫沈降法によってin plantaでのこれらのタンパク質の相互作用を調べる。また、NLRの協同作用機構を解明するために、Pikp-1とPikp-2の欠失変異体シリーズをN. benthamiana葉で過剰発現させ、AVR-PikDの存在下でNLRのどの領域が細胞死をサポートするのかを調査する。NLRのNB-ARC領域には高度に保存されたP-loopおよびMHDモチーフがあり、これらのモチーフはNLR機能において重要な役割を果たすことで知られている。そこで、Pikp-1とPikp-2に存在するP-loopとMHDモチーフの突然変異体を各々作成し、免疫受容体としての機能に及ぼす両モチーフの役割を解明する。以上の研究を実施することで、既報のNLRペアによる免疫機構とは異なり、Pikp-1とPikp-2は協調的に働いてエフェクターを認識し、植物の免疫機構を誘導するという新奇の免疫シグナル伝達機構の存在を提唱する。
|
Causes of Carryover |
「次年度使用額が生じた理由」 平成30年度に、共免疫沈降実験を行い、その結果を基に植物病理学会において発表する予定であったが、植物の免疫反応解析を優先する必要があり、当初購入を予定していた共免疫沈降キットの購入費が不要になったため。また学会参加費、旅費および論文投稿費が不要であった。 「次年度使用額の使用計画」 共免疫沈降キットの購入費、およびその実行補助としての人件費を計上する。また、現在投稿中の英語論文が受理された場合の論文投稿費に支出予定である。また、国内の学会参加費も支出予定である。
|
-
-
[Journal Article] Cross-reactivity of a rice NLR immune receptor to distinct effectors from the blast pathogen leads to partial disease resistance2019
Author(s)
Varden, F.A., Saitoh, H., Yoshino, K., Franceschetti, M., Kamoun, S., Terauchi, R., Banfield, M.J.
-
Journal Title
bioRxiv
Volume: 530675
Pages: 1-19
DOI
Open Access / Int'l Joint Research
-
[Journal Article] Polymorphic residues in rice NLRs expand binding and response to effectors of the blast pathogen2018
Author(s)
De la Concepcion, J.C., Franceschetti, M., Maqbool, A., Saitoh, H., Terauchi, R., Kamoun, S., Banfield, M.J.
-
Journal Title
Nature Plants
Volume: 4
Pages: 576-585
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
-
[Journal Article] Lessons in Effector and NLR Biologyof Plant-Microbe Systems2018
Author(s)
Bialas, A., Zess, E.K., De la Concepcion, J.C., Franceschetti, M., Pennington, H.G., Yoshida, K., Upson, J.L., Chanclud, E., Wu, C-H., Langner, T., Maqbool, A., Varden F.A., Derevnina, L., Belhaj, K., Fujisaki, K., Saitoh, H., Terauchi, R., Banfield, M.J., Kamoun, S.
-
Journal Title
Molecular Plant-Microbe Interactions
Volume: 31
Pages: 34-45
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-