2020 Fiscal Year Research-status Report
共生細菌が駆動する宿主害虫イモゾウムシの繁殖形質の進化の解明と防除技術への展開
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18K05667
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
熊野 了州 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (90621053)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊池 義智 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30571864)
日室 千尋 琉球大学, 農学部, 協力研究員 (60726016)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イモゾウムシ / 共生細菌 / ナルドネラ / 配偶行動 / 不妊虫放飼 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫体内の共生細菌には,宿主昆虫の生存で重要な機能を受け持つものが存在し,ゾウムシの一部は硬い外骨格や交尾器(トゲや挿入器)の形成を共生細菌の働きに依存している.こうした事実は,共生細菌が宿主の配偶者選択やオス間競争といった繁殖に直接関与していることを示している.特に,オス交尾器の硬いトゲは雌雄の性的対立を生み出す繁殖形質として知られるが,共生細菌はこの形質を操作し対立を激化させるよう機能している可能性が高い.本研究では,サツマイモの難防除害虫イモゾウムシEuscepes postfasciatusとそのクチクラ質形成に関与する共生細菌ナルドネラNardoneraの系を利用し,共生細菌機能の操作により,共生細菌が宿主昆虫の性的対立と適応度成分に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.一般に共生細菌は寄主に比べて高温に弱い特徴を持ち,こうした関係はイモゾウムシと共生細菌ナルドネラの関係でもみられる.本研究では昨年度までに,ナルドネラの高温耐性能力とナルドネラ喪失に最も効果的なイモゾウムシのステージの特定を行なっており,羽化直後や蛹期に7日間高温飼育(31°C)することで.コントロール(25°C飼育)に比べ性成熟時にナルドネラ量が有意に減少することが明らかになっている.こうした知見を用い,本年度は高温飼育によってナルドネラ量を操作した個体を用い,通常飼育個体(25°C飼育)との間の配偶行動を行わせ観察を行なった.また,交尾ペアに関しては次世代生産数も合わせて調査を行なった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの成果で確立した共生細菌量の操作技術を利用し,得られた個体の配偶行動について明らかにできたため概ね順調に進展していると考えている.
高温飼育を行ったイモゾウムシの雌雄を用い,それぞれを通常飼育の雌雄との間で交尾を行わせた.事前の予測では,高温処理により共生細菌を失った個体は,体サイズ,活動性,交尾成功,次世代数の低下が生じると考えられた.特に本種では体サイズの大きなオスがメスに好まれることが先行研究で示されていることから,共生細菌の喪失は特にオスの適応度に大きな影響を与えると考えられた.しかしながら,一部の結果は予測とは異なり,体サイズや次世代数の低下が生じたものの,交尾率は雌雄ともに高温処理によって共生細菌除去を行なった個体が通常飼育個体に比べて高くなった.
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Strategy for Future Research Activity |
配偶行動の実験により,高温処理によりナルドネラを除去した個体は,当初の予測通り体サイズが小型化したものの,活動性や交尾率に関しては,予測とは逆に高くなることが明らかになった.ナルドネラの共生はゾウムシ類では色彩の黒化や大型化といった変化をもたらすことは知られていたものの,交尾成功を阻害する働きが明らかになったのは初めての例である.本種ではオスの体サイズがメスの配偶者選択に影響することが先行研究で示されているが,本研究の結果は,処理オスの形態形質の変化がもたらす適応度(次世代数)の低下を,行動のスイッチによって補われていることを示唆するものである.共生細菌がオスの次世代数の低下させる原因について,オスに由来する射精物の質的あるいは量的な変化やメスによる交尾後の配偶者選択の可能性が示唆される.高温処理オスでは,オスの射生物輸送に強く関与していると考えられる交尾器のトゲ形態の変化していることが本研究で明らかになっており,今後,交尾器形態の変化と繁殖成功の関係を明らかにすることで,共生細菌の配偶行動での役割を明確にできるのではないかと考えている.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により,野外調査,学会参加に予定していた旅費が使えなくなったため,次年度使用額が生じた.研究遂行に必要なデータについては共同研究者の協力で問題なく取得できており,研究の進捗に問題はない.残された予算は,今年度の実験で明らかになった,共生細菌の存在により生じる交尾率の低下のメカニズム解明のための追加実験を行う予定である.追加実験については現在残されている予算内で問題なく進められると考えている.
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Research Products
(9 results)